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絢爛豪華な部屋 1
フライパンにバターが落とされ、ジュッと音を立てて溶けていく。
今日の夕食はムニエル(数匹)と牡蠣バター(数個)、その他小鉢だ。相変わらず手際がよく、ささっと料理が仕上げられていった。
「……」
遼介は生徒会の資料を淡々とこなしており、鼓は帰ってきてからまだ一言も喋らず黙々と調理をしていた。
それには、訳がある。
遼介が離れるのは許さないと言った通り、二人は一緒に部屋へ帰ってきた。と言うより、授業が終わった時にはもう教室の外に居たのだ。
驚く鼓を他所に、遼介は頬にキスをし、(逃げられないように)手を繋いだ。
『じゃあ、帰ろうか』
『ふ、ふぁい…』
突然の甘い対応に思わず変な声を出した。
その帰り道でのこと。
『つーくん、俺の部屋に来ない?』
『え、』
どういうこと、と遼介を窺う。今は一緒に住んでいるというのに、何故そのようなことを言うのか。遼介の部屋に移ったとして何が変わるというのだ。
怪訝そうな表情をしていたせいか直ぐに遼介が理由を言う。
『俺の部屋、つまりみやび荘のことだよ』
『みやび……』
『あっちの方がセキュリティは万全だし防犯カメラも付いてる。つーくんが不安ならあっちに行ってみるのもいいかなって思ったんだけど。
強制はしないよ、つーくん次第』
『…』
遼介も安全に生活できるであろうみやび荘。何故鼓がその事について悶々と考えているかと言うと。
「調理器具……」
そう、非常に単純なものであった。
鼓の部屋には大中小のボールから鍋、小皿に小鉢、丼鉢や円形皿など大量の調理器具と皿類が置いてある。
遼介の部屋にそれがあるとは、とうていおもえないのだ。
仮にもあの遼介が、料理をするとは思えず。どちらかと言うと部屋に料理が運ばれて来て食べてそうな遼介だ。
実際、そうなのだが。
別に料理が運ばれてくる分には申し分ないのだ。
が、しかし。これは鼓の勝手な思いになるが。
「やっぱり、俺の料理食べて欲しいとか……ワガママ、かな。そんなことよりも遼介のことが大事なんだけど…」
誰だって、好きな相手に料理を食べて欲しいものなのだ。
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