268 / 435

絢爛豪華な部屋 7

荷物が運び出される際、鼓はなんの感情もなくヴァイオリンを捨てた。 必要のない紙や物を捨てる要領で。 バレないよう、ちゃんとケースと中身を別々の袋に入れて捨てたというのに。 今まで何となく捨てる気が起きなくて、漸く捨てる機会が来て嬉々として捨てたというのに。 帰ってきたそれを見て、鼓は苦々しく思いながらも遼介にはい、とだけ返事をした。 (もっと厳重に捨てるべきだった。鷲野理事長(アイツ)が辞めたすぐ後でも良かったのに) 今更後悔してももう遅い事だった。 この夢ノ内高校には、いくつかの推薦がある。 推薦は掛け持ちして受けることが出来、その数によっては奨学金の免除額も上がる。 鼓はその中の2つを受けていた。 1つは学力推薦。 そしてもう1つは音楽推薦だ。 前理事長、つまり鷲野理事長によりヴァイオリンの才能を惚れこまれた鼓は嫌々ながらも音楽推薦を受けたのである。 に決して頼りたくない理由があったため、鼓はそれを許諾した。 時折ヴァイオリンの演奏を理事長に聞かせるという最悪な提案も受け入れて。 ……本当は鼓の学力だけで全額免除されるというのを知ったのは、鷲野理事長がいなくなった後のことだった。 憤りを隠せなかった鼓は新理事長に掛け合い、音楽推薦を取り消し、学力推薦のみに切り替えてもらった。 そのため、もうヴァイオリンを使用する機会は無くなり、いつ捨てても良かったのである。 そうして、忘れ去られていた。 それが今こうしてアダとなっている。 「つーくんヴァイオリン弾けるんだね。また弾いてみてよ」 「……そのうち、です」 「楽しみにしておくね」 「はい」 自分は今笑えてるだろうかと不安になる。 どこまで遼介に知られているのか、遼介はそれを知ったとして本当に自分にまた同じように笑いかけてくれるのだろうか。 (……怖い) 鼓は笑顔の裏に恐怖に歪んだ自分の顔を隠した。

ともだちにシェアしよう!