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幸せな時間は終わりを告げる 4
図書室の奥、一番端の席を陣取ると、漸く古木はカバンを下ろすことが出来た。
「疲れた」
バタン、そのまま倒れ込む。そんな姿を鼓は苦笑して見つめた。
「今からもっと疲れるでしょ。ほら、どこ教えて欲しいんだっけ?」
「全部!」
「…………は?」
「数学と生物と日本史と、あとエトセトラ!」
鼓の微笑が引き攣り、次の瞬間般若と化した。遼介も少し椅子を遠ざけ逃げた。
怖い。これは、怖い。
「ねぇ、古木」
「……はい」
「俺前に言ったよね、テスト前に言うのやめろって。分からなかったらその都度聞きに来いって」
「仰りました」
「仰りましたじゃねぇよおい」
「っひぃぃっ!」
「叫んでる暇あったらノート教科書ワーク開けよ」
「す、すみませんんん!」
「図書室では静かにしろって習わなかったの。そんな基礎的な事忘れるくらい馬鹿になったの」
鼓のポリシーは、腹黒さを出さない、だ。
それは、腹黒がバレれば防御壁がなくなってしまうからなのだが、遼介たちというちゃんとした味方が出来た今、それはもう関係などない。
誰が見ていようと、自分のうちを明かせるのだ。
なので。
「そこ、次間違えたらペナルティで最初から」
「さっきそれ説明したよね、5回目だよ」
「そこの漢字間違いは本気でありえない。ねぇ、自分の名前ってちゃんと書ける?大丈夫なの?」
「……最初から、やれ。そう、全部ね。頭に叩き込んで。答え覚える?それくらいやるのが正解でしょ。むしろ答え覚えたなら導き方も忘れないよね?」
「シャーペンへし折りたいって思ったの初めてなんだけど。あ、違う、シャーペンじゃなくて鼻がいい」
いつもはお腹の中で留めているもの全てを、古木は一身に受け止める事となっていた。
「(つーくん、すっごい怖い。やっぱり盗聴して聞いてたのとは訳が違う。というかあの頃よりグレードアップしてるような……?)」
遼介は被害が及ばないよう最後まで黙っていた。
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