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幸せな時間は終わりを告げる 7
発端は、
赤いリボンの付いた鍵だった。
いつものように放課後、鼓は古木を連れて図書室に来ていた。遼介がその手の本を片付けてしまったことでその本目当ての輩はいなくなり、閑散としていた。ほとんどの学生が勉強せずとも学年が上がれてしまうので、図書室の需要がなくなってしまったとも言える。
静かな中で響く鼓の怒気を孕んだ声、古木の悲鳴。
ある意味、変な予想が立てれてしまいそうだ。
そして図書室に来てから数十分後。古木は連日の勉強会で完全にダウンし、図書室の机で伸びてしまった。
「……」
「古木?」
「…………」
「……死んでる」
動く気配がなさそうなので、鼓は諦め、まぁここまで真面目に勉強したなら許せるかと適当に本棚を物色することにしたのだった。
古木はこの一週間でテスト範囲だけであるが、あらかた要点を抑えていた。
鼓のスパルタ教育(?)のお陰もあるのだろうが、鼓曰く「やればできる子」らしい。実際、古木は1年の時は自学習してどうにか上がってきている。分かればきちんと成績は向上するようだ。
そんなことを考えつつ、本棚を物色する。
目に付いた本をペラペラと捲り、中身を適当に読み流して次のところへ。
ちなみに、”適当に読み流して“とは言っているもののそれは周りが思っているだけであり、実の所、速読している。
要所要所だけを読んでいるため、読み流しているように見えるのだ。
この場に、遼介はいない。
生徒会室の鍵が未だに発見できず、再度先生と話し合うことになったのだ。
『話し合うって言ったって、どうしようもないのにね。ドアごと買い換えればいいのに』
そう言っていたことを、鼓は思い出す。
(あのドア他と比べて装飾とかも豪華だし、買い換えるってなると50万超えるんじゃないかな。遼介の唐突な富豪発言にも驚いたけど、それより俺はドア如きに装飾付ける人の気が知れない。
そんなの要らないし、金かけるところ間違ってるでしょ、頭回らないの?)
本を読みながら、違うことも頭の中で考える。本当に器用だ。
考えている内容は容赦ないが。
鼓がある棚に差し掛かった時。
「つーくん」
「!」
呼びかけられて振り向くと、遼介がいた。
「話し合い終わったんですか」
「うん、とっても有意義で無意味な時間だったよ」
「進展なかったですね」
(ドアの買い替え案却下されたんだ)
ふふ、と鼓は微笑む。
和やかだ。
その和やかな流れを壊すもの、
「…………ねぇつーくん。あそこに落ちてるのって、」
「?…え、あ…鍵?」
それは、赤いリボンの付いた鍵だった。
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