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恐怖が一定値を超えると人はどうなるのか 1

最初に駆けつけたのは外に出ているはずの隆盛だった。 あの後騒ぎを聞きつけた教師が駆けつけ、震える鼓は保健室に一時的に運ばれた。 事情を説明した八九座が真っ先に連絡して欲しいと言ったのは驚くことに隆盛である。 実は鼓が危険に晒され尚且つ諸事情により遼介が動けない時の緊急連絡先は隆盛になっていたのだ。詩帆では対応しきれないから、と。 隆盛が保健室についたと同時に八九座は彼に大足で詰め寄られた。 「八九座、お前がついていながらどうして―!」 いつもならこんなことがあった時は嗜める役の鼓だが、それすら出来ない状態であった。虚空を見つめ、泣いている。 それを見た隆盛は深くため息をつき、衝動を抑えた。 「…話は後だ。この件は確実に遼介の耳にも入ると思え」 「……はい」 隆盛は胸ぐらを掴みそうになるのを堪え鼓の元へ。 「涼川……、鼓くん、聞こえるか」 声をかけられた鼓はすぐには反応せず、少し間を空けてから隆盛の方を見た。 隆盛は思わず息を呑む。 なぜならそれは、――鼓のその姿が美しかったからだ。 何も映していない、深く青い瞳。溢れる涙を拭きもせず鼓はただただ虚な目をしてた。表情ひとつ変えず、彼は泣いていた。 「しば、せんぱい」 鼓が応答するその一瞬まで隆盛は息を止めてしまっていた。こんなにも綺麗になく人を、今まで見たことがなかったのだ。 そしてぐさま鼓に謝罪をし無事かを確かめる。彼は小さく頷いてまた宙を見つめた。 それからこう言った。 「せんぱい、おれ、しんだほうがよかったですか」 「な、っ」 言葉を詰まらせた。誰がそんなことを、否、いわずもがなしれたことだ、あの犯人が鼓に余計なことを吹き込んだに違いない。そう思い振り返って八九座を見る。 彼は痛々しい表情をして俯いており、隆盛の予想は的中していたことがわかった。 「……俺、は、」 翳った目をしながら鼓は口から何かを出そうとするが…口を数度開閉させただけだった。

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