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恐怖が一定値を超えると人はどうなるのか 2

鼓は何も答えず、隆盛の方も見ない。静寂がその場を包み込んだ。隆盛も言葉を選んで、しかし何も答えることができなかった。 その静けさを壊すかのようにバタバタという音が廊下からした。大きい音を立てて開かれる扉からは詩帆と古木が顔を出す。 「鼓くん大丈夫?!」 「涼川無事なのか!」 保健室に駆け込んだ2人は鼓を立たせ弄くり回して、鼓が無傷なのを見てほっと一息ついた。 「やっぱ1人で行かせるんじゃなかった!!」 「俺もビビらず一緒に行けばよかった…ごめん涼川」 勢いよく下げられる頭に鼓も少し落ち着いてきたのか、大丈夫ですと小声で言った。いつもなら鼓が「俺も1人で行くって言っちゃったので!」とフォローが入るのだが……。 状態がおかしいと感じた古木が訝しげに彼を見る。目が虚ろなのは変わらず、だがそれは古木たちを困惑させた。詩帆は何かを察し、視線を合わせようとしない鼓の側に椅子を持ってきて座る。 「鼓くん、大丈夫?」 「大丈夫です」 「…何か、言われた?」 ピクリと鼓の体が動いた。詩帆は眉を顰めて八九座に経緯を問うた。 「キレそう」 話を聞き終わった詩帆はぽつりとそう呟いた。座った古木は俺も同意です、と貧乏ゆすりをしながら言う。 「鼓くん、この場に鼓くんが死んだ方がよかったって人いないからね!」 詩帆は鼓の肩に手をかけ力強く言った。しかし鼓は小さく頷くばかりで――何も響いていないように見えた。

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