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恐怖が一定値を超えると人はどうなるのか 3
数分の、永遠に続きそうな沈黙の後。鼓はひとりになりたいと膝の上で手を握り締めて言った。詩帆はそれは、と言い淀んだ。
現状、鼓を一人にさせるのは難しい。それは、鼓の精神的状態も要因にあるのだが……。
「警備、置いてもいいから…部屋で、1人にさせてください」
頭を下げられ詩帆も隆盛もたじろいだ。顔を見合わせる。先ほど一人にさせてこのようなことが起こったのだ、また一人にさせるのはいかがなものかと。しかし鼓は頭を上げようとはしない。悩んだ末に二人が出した答えは――
鼓は一人で部屋に戻されることとなった。もちろん部屋の前には数人の警備も配備される。
今は全員みやび荘の遼介と鼓の部屋にいた。流石に帰り道まで一人にさせるわけにも行かないので、護衛数人と一緒に帰ってきたのだ。
「何かあったたらすぐに連絡してね?駆けつけるから!」
「警備も配備させてるから大丈夫だと思うが…」
「俺は遠いから何もできないけど話は聞けるからな!」
各々が声をかけるが鼓はコクコクと頷くばかりで口を開こうとはしなかった。皆心配そうな顔をしていたが、今は1人になりたいという鼓の意見を尊重し長居はせず早々に帰って行った。
「…………」
静かな部屋に、時計の針の音だけが響く。
鼓は制服のまま床に横向きに寝転がりぼんやりとソファーの足を見つめていた。
思い出しているのは、遼介と過ごした、短いけれど幸せだった日々。
「遼介…」
もしここで鼓が呼べば地獄耳とばかりに遼介が返事をしてくるに違いない。けれど、当たり前のことだがここには彼はいない。彼は今病院のベッドで深い眠りについてる。鼓とてわかっているのだが、それが今は辛くて仕方がない。
先ほどから鼓の頭の中には犯人の声がこだましていた。死ね、死ね、死ね、…と。それは過去にも言われた言葉だった。
(…ずっと言われてたのに、言われない環境に慣れるなんて)
小さく体を丸め、鼓はひとり眠りについた。
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