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おかえりなさい、怒らないで 1

(どうするべきか分からない。今の話を聞いたところで彼に全ての落ち度があるとは思えない。でも仄かしたのは彼だ。冗談であっても言っていいことと悪いことがある…じゃあどうするの?ここで彼を責めるのが正解?でも、彼は…) 鼓は椅子の上で縮こまるかのように体育座りをした。頭がパンクしそうになっていた。 「……俺じゃ、決めかねます」 長い時間かけて導き出した答えは、これだった。彼も項垂れて小さく頷いた。 「…はい」 「ただ一つ言いたいのは、わざわざここまで来て謝ってくれてありがとう、それだけ」 「……はい…本当にすみませんでした…最初の軽い態度も、今思うとあり得ないと思います。本当にごめんなさい」 「あのメールは…」 「遊び心が…」 「ほんとありえない!どれだけびっくりしたと思ってるの!!」 「申し訳ありません!!!」 深々と彼は土下座した。鼓はとうとう閉口しそれをどうすることもせず、じっと見つめている。また、長い沈黙が訪れた。 静けさがもはや痛みに変わる頃、鼓がようやく口を開いた。 「あとさ、こういうことがあったからとかそういうんじゃないんだけど…勘違いしないで聞いてね」 「はい」 陰鬱な雰囲気を振り払うかのように、鼓は少し明るめの声を出す。体育座りも解いた。 「ってか頭上げて話しにくいよ」 しかし彼は頭を下げたまま身じろぎすらしない。 「いえいえ是非ともこのまま」 「俺が嫌なんだけど…」 「僕も嫌です」 「椅子持ってくるから座ってよ…」 「大丈夫ですので」 (何この下僕と主人スタイル…今扉開いたら絶対やばいって思われるじゃん) だかしかし、まぁいいやと鼓はこの場が異様な光景なことを頭から消した。鼓は時として諦めも肝心だと知っている。 そして何も気にしていない素振りをしながらこう言った。 「俺、遼介と別れる気でいるから…君のこと云々関係なく、最初かr――」 先程鼓はこう思った。今扉開いたら、と。 まるでそうなることが初めから仕組まれていたかのように、部屋のドアが静かに開いた。 「」 頭に包帯を巻き、松葉杖をついた涼介が、無表情で立っていた。

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