351 / 437

おかえりなさい、怒らないで 4

「たいいん、したんですか」 少しして、起き上がりながら鼓がそう問う。 遼介はあぐらをかき、問いに答えることなく鼓を引き寄せる。や、と小さく鼓は抵抗を示したが、力は遼介の方が強いため、ずるずると引きずられ遼介の腹を背に膝に乗せられてしまった。そのまま優しく抱きしめられる。 そしてそのまま彼は喋り出した。 「退院といえば退院かな。朝に目が覚めて、八九座に今までの話全部聞いて飛び出してきた。つーくんは今日休んでるって三人から聞いてたし。あ、三人って詩帆と隆盛と古木くんね。みんなつーくんを驚かしたくて、俺が目を覚ましたって連絡入れてなかったっぽいけど」 頭に顎を置いてしゃべる遼介になんとなく安心し鼓は凭れかかった。 「柴先輩からは、なんか電話きてたような」 「そうなんだ。多分俺が来るから動かないでくれって電話したんじゃないかな」 あの叫んでた電話はそう言うことかと合点する。涼川くんそこから動くn、つまりそこから動かないで部屋にいてくれと言おうとしたのかもしれない。しかしそんなことを言えば理由を言わざるを得なくなる。隆盛も気が動転していたようだ。隆盛らしくないミスである。 そういえば言わなければならない、と鼓は自己申告をする。 「携帯壊しちゃって…」 「え」 「落としちゃって、そのまま画面映らなくなった」 そっか、とだけ遼介は言い鼓のつむじにキスをする。そして続けざまに色々怖かったよね、傍にいてあげられなくてごめんと呟いた。 「………それよりも、遼介がいなかったのがつらかった…死んじゃったらどうしよう、いなくなったらどうしようって」 「うん」 「目の前でいっぱい血が出て、呼んでも起きてくれなくて」 「うん」 震える声に遼介は優しく、そしてゆっくり頭を撫で、短い相槌を打つ。 「ICUにいる姿見て俺が代わりになればよかったって思って、…」 話しているうちに、鼓はもう堪えきれないとばかりにまたボロボロと雫が溢れ出させる。 「俺は、つーくんが怪我してなくてよかったと思ってるよ」 「…っ、…りょ、すけ」 「なに?」 「おかえりなさいっ」 振り返った鼓は遼介の胸元に飛び込んだ。暖かな鼓動に、本当に目を覚ましたのだと、帰ってきてくれたのだと、実感する。安心するその香りに鼓はようやく泣きながら笑顔になった。 「つーくん、俺風呂入ってないし臭いと思うんだけど」 「いつも俺の汗とか嗅いどいて今更なんですか……」 「…すみません」

ともだちにシェアしよう!