355 / 437
おかえりなさい、怒らないで 8
「まあ今のは冗談として」
まじの目してましたけど???と鼓は問い質したいのを我慢した。ついでに握りしめ振り上げていた手も、降ろした。
本気で殴る気だったらしい。
「今の話聞いて思ったのが、なんだそんなことか、ってこと」
「なっ」
遼介があっさりと言ってのけたため、憤慨した鼓は起き上がった。暗がりでも微笑んでいるのがわかる遼介を睨みつける。
自分がこんなにも悩んでようやくいま吐露した事が、そんなことかで片付けられてはただの悩み損というものだ。
「そんなことって!!!俺にとってはっ」
「うん、つーくんにとってはすごく大きい悩みなんだよね」
遼介は腹に置いた腕を使い、鼓に寝転がるように促す。鼓は渋々それに従い横になった。今度は遼介の方を向いて横になる。
いい子、と遼介はそのまま鼓を胸に抱 き込んだ。もう片方の手は腕枕のために鼓の頭の下に置く。
「わかってるよ、でも、俺にしたら"そんなこと"なんだ。鼓が信じられないと言うなら、自分に自信が無いと言うなら――
俺が、何度でも鼓に、言えばいい。鼓は俺に全部愛されてるって」
「――――、」
「自信が着くまでそう言い続ける。鼓がどんな性格だろうと、どんな容姿だろうと、俺は鼓を愛し続けるから」
「……ぁ…」
すとん、と鼓の胸に何かが落ちてきた。
鼓は目を見開き頭をはね上げ、腕の中から遼介を見上げた。遼介もこちらを見つめている。
「りょうすけ」
「ん?」
「ずっと、一緒に居てくれるの?」
「当たり前。俺は鼓を愛してるからね」
呆けた顔をした鼓の額に、遼介はキスをひとつ落とす。
(……悩みが、消えていく。たしかに、俺の悩みって…そんなことかで済まされる程だったんだ。俺は遼介に愛し続けてもらえるか、ただそれが不安だったんだ)
自分の中でパズルのようにピースが組み合わさって行く。
そのパズルが完成した時、遼介はそれを察したかのように1つ聞いてきた。
「鼓、俺と別れたい?」
「っ、やだ、いやだ!!!俺、遼介と別れたくない!ずっと一緒に居たいっ」
「うん、…よかった」
安心したように遼介はそう呟いて、今度は鼓の唇にそっとキスを施した。
2人は初めてキスをした。
「さてつーくん、寝ようか」
「…あの、一つだけ聞きたいことが。さっきのセ…っは何だったんですか」
「いや、肉体関係結べば少しは安心してくれるかなって」
「サイテー。変態。肉体関係とか、まだ先です」
「……そのうち、だね」
「ばか」
ともだちにシェアしよう!