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君の過去

後ろから抱かれ首元に顔を埋められる。今日は緩めにセットされている遼介の髪が頬にかかり、それがくすぐったく身じろぎをした。 「つーくんいい匂い…」 「また嗅いでる。てか汗かいてるから臭いですよ」 「それもまたいい…」 「ヘンタイ。あと、授業中もずっと見てましたよね」 「うん。つーくんの艶かしい足をじっと……」 「ヘンタイ!」 昼休み前の4時間目、鼓達のクラスは体育であり運動場でサッカーだった。そして教室の真ん中の席だったはずの遼介は何故だか窓際の席におり鼓を見ていた。気づいてはいたが一度も鼓はそちらの方を見ていない。確実にこっちを見て欲しくて視線を送っているのに鼓は気づいていたからだ。視線を向ければ思うツボである。 何かと冷たくあしらわれる遼介だった。だがさすがは遼介、めげない。 数分しても匂いを嗅いでいる遼介の顔をぺちっと軽く叩き、鼓はご飯食べましょうと促した。だが遼介はその状態から動かない。鼓は不審に思い名前を呼ぶと遼介が口を開いた。 「つーくん、今年の夏休みも寮に残るの?……それとも帰るの?」 一瞬で鼓の顔が強張った。 (なんで去年寮に残ったことを知って…いや、そんなことよりも、) 鼓にとっては聞かれたくなかった話題のようで、少しの静寂の後鼓は非常に嫌そうな顔をし、拳を握り締め、喉の奥から絞り出したような声で言った。 「……今年は、帰ります」 「帰るんだ。どこに?」 「どどこ、って」 問われた鼓は思わず吃る。返されるとは思ってなかったようだ。 「家です」 「俺つーくんの家知らないんだけど」 さらに問い詰められると鼓は再び口を閉ざし、遼介の膝から降りて隣に座る。表情は影になって見えなかった。 「遼介、どこまで調べました」 「……何も」 「なにも?俺のことを調べ尽くす遼介が何も調べてないはずないですよね」 遼介はゆっくり首を横に振る。 「調べても、何も出てこなかったんだよ」 鼓は訝しげに隣の自分の恋人を見た。彼は鼓の膝にある硬く握り締められた拳を触り、優しく解いて繋いだ。 「だから俺は何も知らない。……気になるけど、鼓が話してくれるまで待つことにした。何があっても俺は鼓を愛するよ」 その言葉を聞いて、鼓は頭を緩慢に横だか縦だかに頭を振った。 「でも俺もつーくんの家に行きたいな!!一緒に帰省したい!」 「だめです」 即答された。

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