367 / 437
夏休み 1
遼介は粘ったものの鼓は頑として首を縦には振らなかった。
「話すの待っててくれるなら家に来たいと思うのは違うんじゃ」
「家に行ったところで何かがわかるわけじゃないと思います!」
小学生のように元気よく手を挙げ遼介が言う。鼓は言葉に詰まった。
「ぐ…………でもダメです」
(家に来たら、それこそ全部話さなきゃならなくなる。あんな家見られたくない。それにまだ心の準備できてない!)
鼓はお弁当を開いて真ん中に置き、とにかく家には来ないでくださいと言った。そしてその鼓の言葉をきっかけに二人の話し合いは言い合いにまで発展することとなる。
「つーくんの頑固者!この卵焼き美味しい!」
「それは俺のセリフです!卵焼き今日はだし巻き風にしてみました」
「俺つーくんのご両親に挨拶したい!だし巻き好きなんだよね嬉しい!ありがとう!」
「それはよかったですね!」
喧嘩してるのか誉めているのかどっちかにしろ。
「俺の方はもう両親に言ってある!つーくんピーマン入れないでって言ったのに…」
遼介は重箱の中にあるピーマンと豚肉のあんかけ炒めを鼓の方へ追いやった。
「言ったんですか?!早いですよ!!あとピーマンは栄養高いんで食べてください!」
だが見ていた鼓に手を叩かれピーマンは再び遼介の元へ。
「言ったよ!なんなら俺のつーくんグッズは部屋に置き切れないから実家に送ってる!ピーマン苦いんだよ…」
「っありえない!おおお、俺のグッズって、汗とか、下着とか…ありえない!!ピーマンはそのためにあんかけにして苦味消してるんで食べてください!」
「流石にその辺は送ってないよ、アルバムだけだ!俺の供給源送ったら死んじゃうし。……じゃあピーマン食べる」
「供給源……俺の下着、供給源……???」
鼓は一度思考が停止したが、頭を振って気を取り直しピーマンどうぞ!と言った。恐らく言い合いの論点はそこではないしなぜ気を取り直して最初に出てくる言葉がそれなのだ。
しばらくの間、咀嚼音だけが部屋に響いていた。
先に口を開いたのは遼介だ。箸を止め下を見つめたまま鼓に問う。
「………そんなに嫌がるってことは、つーくんのご両親、男同士には理解ない感じなの?」
ため息をついた鼓は軽く下唇を噛んだ。
「いえ、俺に両親はいないの………で……………ぁ」
テーブルを見つめていた遼介がバッと顔を上げた。鼓はしまったというような顔をしていて口を押さえている。口を滑らせたようだ。
「いない…の?」
「っ、うるさい!!」
聞き返すと鼓は大声を出し勢いよく立ち上がった。テーブルが膝に当たり、弁当がの中身が少し溢れた。
ともだちにシェアしよう!