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夏休み 3
保健室に着くと古木は保険医に事情を説明し2人きりにしてもらった。しかし古木は宥め方が分からないので、とにかく深呼吸しろ、大丈夫だと言い続けるしかなかった。
ようやく鼓が泣き止む頃には授業開始の本鈴が鳴っていた。そして泣き疲れたのか鼓はすぐにうとうとし始めた。それはそうだろう、保健室に行く道中もずっと泣いていたのだから。
寝た方がいいと言われベッドに横になると、古木が近くにあった椅子を持ってきて座った。持っていたハンカチは涙でベタベタになりじっとりしている。一応畳んでベッド脇の小さなサイドボードに乗せた。
「そんなに嫌だったのか?」
眠たげな目で古木を見る。なんのことだと見つめていると、家に来られるのも自分のこと話すのも嫌なのか、と続けられその話かと納得した。
「……うん、まだ話したくない。家には尚更来てほしくない」
「まだ、って」
「話さなきゃいけないのは分かってる、でも怖い」
「こんだけ愛されててまだ怖いとか…」
「……………………俺、帰省するんだ」
「話が急だな」
話を逸らしたのかと思うほど脈絡のない言葉に彼も首を軽く傾げた。
「家が、嫌いなんだ」
「まぁそれぞれの家庭ってもんがあるし、嫌いなのは仕方ないんじゃねーの?」
頷いた鼓はゴロリと横を向き、でもと付け加える。
「多分俺、普通じゃない」
「……」
「騙されたって言われるのが怖い」
「…………その辺俺はよくわからないけどさ」
顔を覗き込まれついでにデコピンを喰らう。鼓は驚き古木に痛いと物申した。痛くないだろ、と返される。
「氷川先輩のこと、もう少し信用してあげれば?」
鼓は思わず黙り込んでしまった。
(俺、遼介を信用したいって思ったところだったのに。この間そのことで怒られたのに、同じことしちゃった……遼介は俺のことを愛し続けてくれるってちゃんとわかったはずだったのに)
先程の暴言にますます罪悪感を感じ気持ちが暗くなる。
押し黙ったのを眠気が押し寄せたのだと勘違いした古木は寝る?と問うてきた。
「次の授業の先生には言っとくから寝ろよ」
「…ありがとう」
礼を言い鼓は大人しく目を瞑った。そして靴下も脱いだ。実は鼓、靴下嫌いである。
古木がカーテンを閉めてくれたため、室内の明かりが僅かに遮光され眠るのにちょうどいい明るさになった。
(ちゃんと話してみよう。遼介は何があっても俺を愛してくれるんだから)
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