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夏休み 4
鼓はそう思ったものの、なかなか話すことはできず――
時は流れ、とうとう二人は気まずい雰囲気の中夏休みを迎えてしまった。
あの後心配した遼介により鼓は彼におんぶされ帰った。しかしその後鼓は言い出せず仕舞いで、終いには会話自体がぎこちなくなり話さなくなってしまったのだ。
2人は部屋にいる時も最低限の会話しかなく、ベッドがひとつしかないため一緒に寝起きはするものの、会話らしい会話はしていない。
そして鼓は最初の数日間は準備のため部屋に残るが、今日から二日後には帰省してしまうという最悪な状況に陥ってしまう。
現在、遼介は息苦しさに耐えきれず詩帆の部屋に逃げて来ていた。
「それからずっと、まともに会話してないの?!」
「はい…」
「ストーカーが聞いて呆れる!」
話を聞いた詩帆は天を仰いだ。
「何今更怖がってんの話し合ってこいって言いたいけど、俺は鼓くんの味方だから鼓くんに同情する。待てを覚えろ駄犬!鼓くんがいつか話してくれるって言うんだから我慢しろよ!」
「クリーンヒット……」
遼介は眼鏡を外してカウチに寝転がり、天井を見つめていた。目が虚である。
「俺は駄犬です…もはや生きている意味などありません…つーくんを傷つけた罪で打首獄門のうえ市中引き摺り回しの刑に処してください……」
「刑罰重すぎだわ!!!つかそこまで言っていないわ!!」
つっこまれた遼介は顔を腕で覆い、俺つーくんに合わせる顔がない生まれ変わりたい、と呟いた。かなり重症である。
「はぁ…まぁ俺も鬼じゃないからアドバイスとかするけどさ。そんなに気になるなら聞けばいいじゃん思い切って」
「話聞いてた?少し触れただけで拒絶反応起こしたみたいになるんだよ?聞けるわけないだろ」
「でもこのまま気まずいままでいいの?」
「……」
「ストーカーしてた時の根性どこ行った!」
「消え去ったよ…」
嫌味なほど長い腕をだらりとカウチから投げ出している。もうどうでもいい、という気持ちが見てとれた。
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