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夏休み 7

「多分自分がいない時に帰省させようとするのはあの人…父親なりの配慮だと思うんですけど、なんかそれも腹たって」 絡められていない方の手で頭を軽く抱え、鼓は唸る。それほどまでに彼はが嫌いだった。 「とりあえず帰るのが短くて、今日の夜家に着くから…明後日の夜には家を出るので帰省2日だけです」 「そっか…それじゃあこっちに着くのは夜中になるかな」 「そうなります」 この経緯を言うだけでどれ程頭を悩ませたのか、それを思うと遼介はなんとも言えない気持ちになった。 「話してくれてありがとう」 「…いえ、ここからが本題で」 本題?とオウム返しに遼介が問いかけると鼓は小さく縦に首を振った。遼介が痛くない程度に手に力がこもる。 「身勝手なのは重々承知してるんです、けど…家に、一緒に帰って欲しい、です」 「え」 思いがけない話に目をぱちくりさせると、鼓が泣きそうな声音(こわね)で叫んだ。 「ひとりじゃ、帰れない…っ」 そう言った途端、鼓は遼介の手を振り払い椅子から立ち上がって頭を下げた。 「お願いします、うるさいなんて暴言吐いたくせにすごく虫がいいのはわかってるんですけど…、もう、あの家に帰るってだけで気分悪くなって吐いちゃうほどで…!ごめんなさい、お願いします、ついてきてください!」 「ちょ、つーくん落ち着いて!頭とか下げなくていいから!」 「おねがい、しま…っ、」 さらに深く下げようとする鼓を、遼介は駆け寄り急いで辞めさせた。そのまま胸に抱き抱える。想像以上に鼓は震えていて、呼吸が浅かった。 「鼓、落ち着いて」 「おね……っ、が…ごめんなさ」 「鼓、鼓…大丈夫、大丈夫だから」 遼介は彼の髪を撫で、ゆっくり息してと耳元で囁いた。鼓は涙を拭くことなく鼓の手が遼介の服を掴んでいる。 「そんなに嫌なら、無理して帰らなくても…」 「遼介、いっぱい…待ってくれたから、ちゃんと話したくて…」 「……その為に、家に帰ることが必要?」 服を掴む力が強くなる。何も言わずとも察した遼介は、わかったついて行くと言った。

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