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夏休み 8
呼吸困難で死にそうな鼓を必死で宥める。泣きやみはしたもののかなり噎せていて、まだもう少し時間がかかると思った遼介は鼓を抱えソファーに座った。
背中を摩り、息吸ってと促す。
「ゲホッ…」
「大丈夫?水飲む?」
首は横に振られた。
「だいじょ、うぶ…遼介、用意…」
「すぐ終わるから大丈夫。最悪つーくんの服貸してもらうから」
「着れないでしょ!ゴホッ…」
ツッコミを入れるとさらに噎せ数度咳をする。遼介にツッコむからーと言われたが、鼓は心中で遼介のせいなのにと思わずにはいられなかった。
しばらくして落ち着いた頃に遼介は簡易的な用意をするからと自分の部屋に入って行った。鼓はひとりぼんやりと天井を見つめていた。
(これで、よかったのかな)
自問自答を繰り返すが、答えが出る訳では無い。
(あの人が居ないだけ、マシ…。あの人がいる状態で自分のこと話したくないし、まず遼介と合わせたくない)
ぎゅっと目を瞑り、震える手を抑えつける。頭の中で浮かぶ嫌な情景を、深く息を吐いて追い払う。
代わりに思い浮かばせるのは遼介の顔だった。優しく微笑んでくれたり笑ったりしている顔だ。そして何故か、体育祭の時に遼介に自分のご褒美として襲われた記憶が蘇り、バン!と勢いよく顔を隠した。
(や、あ、あれは、思い出すやつじゃない…!!記憶から消したい!)
うううううと唸っていると、用意を終えたらしい遼介がつーくんどうしたの…?と怪訝そうに聞いてきた。鼓はなんでもないです!と顔を隠したまま言った。
「なんか耳赤いけど」
「気の所為です」
「首も赤いけど」
「気の所為です」
「なんか恥ずかしいこと思い出したの?」
「……なんでわかるんですか!!」
さすがエスパーである。鼓の心をしっかり読んだ。
指の隙間から遼介を覗き見ると笑っていて、その笑顔に安心した。
「体育祭の…あれ思い出しちゃって」
「あれってなんだろ〜俺分からないな〜?」
(これ絶対分かってる!!)
ニコニコ笑いながら近づく遼介を鼓は睨みつけた。指の間からなのであまり効果は無さそうである。
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