380 / 437
夏休み 13
逆開きのドアが閉められ、静かに車は出発した。夏場であるためまだ当たりは明るいはずなのだが、学校の立地が立地なために木々のせいで鬱蒼としている。そして車に防音素材が使われているためか、遼介は静寂が痛く感じられた。
「お久しぶりでございますね」
「……」
返答はない。
「とは言ってもたった一年振りですが」
「……」
「お元気でしたか?鼓様」
様付けやめて、と言う鼓の顔は本気で嫌そうで、窓の外をじっと見つめている。かなり冷たい対応に遼介も神妙な顔をするしかない。
「つ…鼓君」
「遼介、別に畏まらなくていいし逆にちょっと怖いからやめて」
君付けをされた鼓は苦笑いしながら振り返った。いつもの表情より少し強張った顔に、緊張が見て取れる。
「じゃあつーくん」
「はい」
「呼んだだけ」
なんですかそれと鼓は笑った。多少は和んだようだ。
それを聞いていた運転手もクスクス笑う。しかしそれを聞いた鼓は笑顔を隠した。
「鼓様のそのような表情久方ぶりに見ました」
「つーくん笑わないんですか?」
思わず遼介が質問すると、ちょっと遼介…と鼓が苦言を呈したが無視された。運転手はミラーで遼介と目を合わせながらええ全く、と問いかけに答える。
「むしろ怒ってばかりです。なので笑っておられるのが新鮮で」
「要らない情報遼介に吹き込まないで!」
「俺は家にいるときのつーくん知りたい」
「や、……ぅ…でも……」
しどろもどろになりながら言い訳を探すも特に見つからず鼓は下を向いて黙った。運転手は驚いた顔をしている。
「丸め込まれてる鼓様を見る機会が来るだなんて」
「それもないんですか?」
「そうですね…こう言ってはなんですが、鼓様は雄弁に加えて饒舌、口達者でいらっしゃいますのでどちらかと言えば丸め込む方ですから」
「雄弁、饒舌、口達者」
言われた鼓はまた窓の方を向いていて遼介の方を見ようとはしなかった。何やら気恥ずかしいようである。学校での鼓は無口な方で、心の中で延々と喋っているタイプだ。やはり家にいる姿と外向きの姿は違うようだ、と遼介は考えた。
そのままじっと見つめていると、鼓は窓の反射越しに遼介になんですかと問いかけた。
「つーくんそんなによく喋るの?」
「………………まぁ」
「学校ではあんまり喋らなくない?」
「…………………………喋る人いませんでしたし」
「あと、そんなに怒るの?」
「……………………」
最後の問いかけに鼓は返事をしなかった。
ともだちにシェアしよう!