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夏休み 14
車内が静寂に包まれて数十分後。不貞腐れた顔でいる鼓がボソッと俺悪くないしと言った。
「ん?」
「怒らせてるの周りで、俺悪くない」
それが先程の返事なのだと気付くのに遼介は短いながらも時間を要した。
「あ、怒るのって聞いたやつ?」
口をへの字にしたまま鼓は頷いた。今のこれは怒っているのか、拗ねているのか。遼介は考えたがとりあえず可愛いから良いか、と謎に納得した。
そのまま再び会話はなくなり、車は森を抜け高速道路に乗った。
その頃から鼓は居心地が悪そうに何度も座り直しており、しきりに深く息を吸ったり手を組んだりしていた。家が近くなってきて緊張し始めたらしい。
見かねた遼介が鼓の緊張して冷たくなった手を握った。指先は氷水につけたのかと言うほど冷え切っている。そして心なしか怯えているようにも見えた。
やがて車は住宅街に入り、丘の方へ登り始めた。その頃には辺りも暗くなり家の電気が疎らについていた。
「到着しました」
車はとある家の前で止まり、運転手が静かにドアを開けた。
「…うん」
遼介が先に降りるも鼓は生返事をして降りてこない。ここまで来て嫌がっているようだ。
「つーくん?」
「……」
ため息を着き肩を落としてようやく鼓が車から降りた。そして目の前にある真っ白で豪華な家をチラ見して嫌そうにそっぽを向いた。
「…大きいね」
「結構前から建ってる家ですけどね」
さすがに諦めもついたのかスタスタと歩き出す。遼介はあっけに取られていたものの直ぐに鼓と同じよに歩き出した。
家は大きくモダン風で玄関の前に黒い鉄製の門がある。運転手は後ろで深々とお辞儀しており、案内はここまでのようだった。
手馴れた手つきで門を開けると、鼓はポケットからカードキーを取り出した。
「…………開かない」
「え」
鼓がそれを翳したもののドアは開く気配を見せなかった。
「鍵変えたのかな…そんな訳ないんだけど…」
ぶつぶつと独り言を言いながら鼓は何度かカードキーを翳す。8回ほど試した頃だろうか、諦めかけた頃ようやくドアが開いた。
「どうしたらこんなに反応悪くなるの?」
少しイラついたように鼓がカードキーをしまう。遼介はそれを見ていることしか出来なかった。
リビングに入って先ず見えたのはらせん階段で、床も壁も外壁同様真っ白だった。鼓は吐き気がする、と呟いて靴を脱いだ。
「あ、スリッパ出します」
「あ、うん、ありがとう」
真っ白な空間に自分という異質が紛れ込んだように感じて気後れしていると、鼓がスリッパを持ってきてくれた。
勝手知ったる我が家、といった感じ。
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