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夏休み 15

とりあえず俺の部屋行きましょう、と鼓はらせん階段を登り始めた。遼介も後に続く。登った先には右側に長い廊下があり左側は大きな窓になっている。 会話はなかった。鼓の表情は無で、何を思っているのかわからないほどだった。 「ここ俺の部屋です」 先程同様カードキーを取り出して鼓はドアに翳したが、ドアはまたもや反応しなかった。苛立った鼓がドアを触ると、ドアは意図も簡単にガチャリ、と開いてしまった。 まるで元より鍵がなかったような音がしたが、実際にそうだった。鼓が部屋の内側を見ると、そこには鍵があったと思われる穴が二箇所あったのだ。 「…鍵、外されてるね」 「……アイツぶん殴る」 なにか不穏な言葉が聞こえた気がしたが、遼介は聞かなかったことにした。 どうぞ、と灯りをつけ通された鼓の部屋は全体的に青で統一されており、カーペットやベッドも青色だった。不思議なところと言えば、ベッドは鼓の大きさと合わないクイーンサイズなところ。 しかしそれ以上に家具がなかった。机もなければ椅子もない、挙句カーテンすらかかっていない。ベッドとカーペットがあるだけ。部屋に入った遼介は家具のなさに驚いた。生活感がないどころか、まるで引っ越し準備が済んだかのような部屋だった。 鼓はベッドに荷物を適当に放り投げると遼介に抱きついた。遼介も床に荷物を下ろす。 しばらくしても何も喋らない鼓に遼介は大丈夫そう?と問い掛けた。 「部屋から出なければ大丈夫です」 抱きついたまま言うものだから、声はくぐもっている。 「少し落ち着いたら…話します」 「無理しない程度でいいからね」 「はい、ありがとうございます」 顔を擦り付けられ、不謹慎だが遼介はかわいいと思ってしまった。

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