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夏休み 16

綺麗な黒髪を撫で少しの間そうしていると、ぐぅーと鼓の腹がなった。昼は結局逃し、軽食のサンドイッチしか食べていないため鼓の胃は限界を迎えていた。 しかし鼓はリビングに行きたくない…と動こうとしない。じゃあ俺がなにか取ってくるよ、と遼介が動こうとした。だがそれは悪いからと渋々遼介から離れる。 この憎たらしい腹めと鼓が思ったのは言うまでもない。 「客室あるので、先に案内します」 床に置かれた遼介の荷物を持とうとしたがひょいと先に取られてしまう。肩に掛けられてしまえば取ることは出来ない。じとっと睨むも遼介は気にせずニコニコしている。気にしていない。 「俺はつーくんと一緒の部屋でも大丈夫だよ」 「襲おうとした人とは一緒に危ないので寝ません」 「そんなー」 わざとらしく肩を落としたが、鼓は気にも止めずほら行きますよ!と遼介の腕を引っ張った。 通された客室は3階で、鼓の部屋より豪華な作りになっており白を基調としていた。ベッドはダブルベッドが2つ、トイレも完備されている。 「広いね」 「遼介の家の方が大きいと思います」 「いや…多分同じくらいだよ」 苦笑しながら遼介がそう言った。鼓はあまり人と関わらないせいか、どこか基準がおかしい。この家より大きい家などほとんどないのに。 「…つーくん、さっきの部屋でずっと過ごしてたの?」 気になっていたことを聞くと、鼓は首を振った。 「知ってると思いますけど、中学も寮だったのであの部屋にいた事はほとんどありません」 「休みの日とかも、寮で…?」 「はい」 鼓は遼介の方を振り返らない。暗くなった窓を見続けている。 「…ご飯、食べましょう」 立ちっぱなしなのもあれなので、と鼓は付け加えた。 リビングは非常に広く、庭が見えるように表は全面ガラス張り、テラスもあった。キッチンは綺麗に清掃されており、まるで使った形跡がないように見える。 「食材あるかな」 遼介に座っていてくださいと言った鼓はキッチンに向かい冷蔵庫に近づく。ここまで綺麗だと誰かが食事を作っているイメージもない。 「お手伝いさんとかは?」 「…知らないです。でも多分居ないと思います。食事に興味無い人なので、栄養ドリンクとかゼリーとかで済ませてましたし」 冷蔵庫を開けながら鼓が言う。何かゴソゴソといじっている辺り食材はあったようだ。 「じゃあえっと…お父さん?はつーくんのご飯食べたとこないの?」 「俺の料理好きらしいので作ってあげませんでした!お皿に栄養バーのせて出したりしてました!」 くるっと振り返った鼓は非常にいい笑みを浮かべていて、遼介はさすが腹黒、怒らせないようにしようと誓った。

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