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夏休み 18
なんだかんだ言いつつ遼介を纏わせたまま鼓は調理を終えた。
テーブルに置かれた料理はどれもこれも、オレンジ色だ。
「今日はかぼちゃの煮物、カボチャスープ、カボチャとひき肉の餡掛け、ピーマン炒め、お漬物です」
「色々ツッコミ所多い夜ご飯だね」
「そうですか?ちゃんと遼介ご所望のピーマン炒め物作ったのに」
「だからそれはちがう…っ」
鼓はまた頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。遼介は肘をつき手の上に額を乗せた。悩める人の図である。
「一汁三菜ってルールめんどくさいので無視しましたけど」
「それはいいんだけど…カボチャ多くない?」
「何故かカボチャ3つ冷蔵庫に入ってたので」
「……お父さんカボチャ好き?」
「知りません。たとえあの人が俺に作らせようとしてわざと置いてたとしても俺は全部食べ切る気でいるので」
「カボチャ好きなんだねお父さん…」
「知りません」
プイ!と鼓はそっぽ向き早く食べましょうと遼介を促した。ちなみに量の比率は遼介が2に対し鼓が8。器の大きさもかなりの違いがあった。さすが鼓、胃はブラックホールのようである。
食べている最中も、遼介は鼓を見ていた。
(つーくんの所作って、綺麗だよな)
箸の持ち方や三角食べ、背筋もきっちり伸ばし喋る時はちゃんと飲み込んでから。当たり前のことだがなかなかできるものでは無い。
「習ったのかな…」
「何か言いましたか?」
口に出ていたと気づいた遼介はなんでもないよ、と言った。
一方鼓は、今朝のことを思い出していた。父親から電話がかかってきた時のことである。
(あいつ、なんで俺の電話番号知ってるの)
どこから情報が漏れたのか。鼓が目を覚ました時監視しているのかと思うほどいいタイミングで、父親から電話がかかってきたのだ。
その時には遼介は詩帆の部屋に逃げていたため、電話は知らないだろう。
初め鼓は知らない番号に間違い電話だろうと無視していた。だがどれだけ経っても鳴り続け、切れてもかけ直してくるためおかしいと思ったのだ。
渋々出てみると鼓の大嫌いな声が聞こえてきた。鼓は反射的に電話を切った。冷や汗が流れる。しかし無意味な行為だったようですぐに電話がかかってきた。
『…はい』
今度は大人しく出て返事をした。
『鼓』
『……はい』
『なぜ切った』
『…………』
答えずに鼓が無言でいると、溜息をつきながらまあいい、と父が言う。
『鼓、今日帰ってきなさい』
何を言われたのか、鼓は一瞬分からなかった。しかし理解が追いついた瞬間意図せず鼓は大声で叫んでしまった。
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