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夏休み 19

『何、言って…嫌に決まってるだろ!!』 何故わざわざこの人がいる日に帰省しなければならないのだ、と。それでなくても嫌々帰るというのに…。 元よりこの帰省は決められていた。中学の2年間、1度も家に帰らなかったためか、卒業した後家に帰ると「高校では流石に1度は帰ってこい」と怒られたのだ。 それでもかなり渋った方だ。条件をいくつか決めてようやく首を鼓は縦に振ったのだ。 それなのにその条件の1つである"顔を合わさない"を反故にしようと言うのか。 抑えきれない苛立ち。更になにか言おうとすると先に父親が落ち着きなさいと諭してきた。それにすら腹が立つ。先に酷い発言をしてきたのはそっちなのに。 『ワタシの帰る日が明後日の夜になったんだ。明後日帰ると、ワタシと鉢合わせる事になるぞ』 意外な言葉に鼓は目を瞬かせた。 『…………嘘、言ってない?そう言っといて結局家にいるとか…』 『嘘を言う必要がどこにある。顔を合わせないという約束を違える程落ちぶれてはいない』 電話の向こうでまたため息が聞こえた。鼓はなんとも言えない顔をしながらわかった、と言った。 『…カボチャがあるから好きに料理してくれて構わない』 『うん、作り置きしないから安心してよ』 『……お前は年々意地悪になっていくな』 「つーくん?」 話しかけられて鼓の回想は終わった。遼介が顔を覗き込んでいる。 あの後ほんの少しだけ話し鼓は電話を切った。実際に家には父親はおらず鼓はかなり安心していた。 「あ、はい」 「食器片付けたらいい?」 両手に皿を持っている遼介が言う。 「俺がするので!」 「俺も手伝うよ」 遼介は食器を持つ。鼓はお客様なのに!と取ろうとするが遼介の方が背が高いため掲げられてしまうと取ることは不可能だ。 何度かぴょんぴょんと飛んでみたが、無理だった。 「遼介大きい…」 「つーくんが小さいんだよ」 「俺平均!」 「つーくん、残念だけど高校2年男子の平均は169cmなんだよ。つーくんたしか166くらいだよね」 「…………俺まだ伸びます。3センチくらいなら伸びます」 「じゃあ俺も伸びるね」 「遼介はそれ以上伸びたらダメです!!」 仕方なく鼓は自分の分の食器を持った。

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