388 / 435

夏休み 21

「たしかニシキアナゴって言うらしいよ」 「えっ、アナゴ…」 「そう、アナゴ」 鼓はストアのチンアナゴ、基ニシキアナゴの写真をじっと見つめている。そしてこのアナゴかわいい…と呟いた。どうやら頭の中でよく見る穴子とニシキアナゴを比べているようだ。 既にダウンロードが終わっているのに気づかないようで、遼介は声を掛ける。 「つーくん、アプリダウンロードし終わってるよ」 「……ニシキアナゴ…」 「チンアナゴもいるからプレイしよ」 思わず笑いながらそう言うと鼓はこくりと頷いて育成を始める。 どうやらカラーが選べるらしく、その中にはもちろんニシキアナゴもいた。鼓は迷いなくニシキアナゴを選び、名前もニシキアナゴにした。それほどに驚いたようだった。 そしてもう一度ストアに戻り遼介におすすめしたいゲームがあって、と画面を見せてきた。 遼介がなんだろうと覗き込むと、まりも育成と書いてあった。 「…なんでまりも?」 「可愛くないですか?」 「…あ、ああ、うん可愛いと思う」 「俺遼介って名前のまりもにしようかな」 「つーくんちょっとそれは待って???」 肩を掴んで制止した。 結局遼介はまりも育成をダウンロードし、まりこと名付けた。ちなみに名付け親は鼓だ。本人も安直だと言っている。 「まりこー」 しかし可愛がっているのは鼓である。遼介に寄りかかりながら彼の携帯にいる"まりこ"をつついている。触るとコロコロ転がる仕様のようで、楽しいらしい。 「大きくなってねまりこー」 「つーくんのクラゲとチンアナゴは大きくならないもんね」 「チンアナゴ大きくなったらなんか嫌ですね…」 想像するとなかなかに恐ろしい。蛇のようになるのだろうか。鼓はやだなーと言いながら"まりこ"をつつく。なぜ自分の携帯で飼わないのか…。 「そう言えば遼介は猫派ですか?犬派ですか?」 他愛ない会話を続けようとすると、玄関の方から物音がした。遼介がなんの音だろうと怪訝に思いそちらの方に向こうすると、鼓が服の裾を掴んできた。 ――震えている。

ともだちにシェアしよう!