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夏休み 22
顔を青ざめさせ、鼓は遼介にぴったりくっついている。それを見た遼介は幽霊かなにかと勘違いして怖がってるのだろうと思い大丈夫だよと声をかけた。
しかし鼓はぶんぶんと大きく頭を横に振った。
「ちが、う」
「違う?」
「遼介、2階行こう。今すぐ、早く」
立ち上がって遼介の腕を引っ張る鼓。一応立ち上がったが、妙に焦っている鼓に何かあると思い理由を問おうとした。
そして遼介は背後に立つ気配に気いた。
勢いよく振り返ると、背が高い人が立っている。遼介より若干高いその人物は、ブロンドの髪を短く刈り上げスーツ姿でそこにいた。
足音は、しなかった。
遼介は警戒し、鼓を背にしながら後ずさるとその人物が口を開いた。
「…久々に会った父親に挨拶もなしか、鼓」
――父?
彼は隠れている鼓を遼介越しじっと見つめている。
遼介が後ろを見ると鼓の震えは止まっていたが、顔を遼介の背中に埋 めて動こうとしない。
「鼓」
「……さい…………じ」
再度声をかけられた鼓はボソボソと何かを言った。
「なんだ」
「うるさいクソ親父!!!」
鼓の口から発せられたその言葉に遼介は目を白黒させることとなる。鼓が大声を出すのも珍しいし、こんなに口が悪いのも聞いたことがない。せいぜい、腹黒が漏れた程度だ。
鼓は遼介の背から出て、父親を睨みつける。
「なんで帰ってきたんだよ!」
「仕事が早く終わったのだ」
「どっかに泊まれよ!会いたくないって言っただろ!」
「まさかこの時間までリビングに居るとは思ってなかったんだ。それに自分の家があるのになぜ泊まらなければならない」
「っ……っ!!」
正論を叩きつけられて鼓は二の次が継げない。ぐっと握り拳を作って堪える。
「……寝るから。風呂あるから入れば」
遼介の腕を取って鼓がそう言う。遼介はなすがまま腕を引かれている。父親の前を通り過ぎる瞬間、カボチャは…と聞かれた。
鼓はぴたっと止まりまた叫んだ、
「うるさいなもう!冷蔵庫に入ってる!!」
「ああ、ありがとう」
父親は嬉しそうに口角を上げたが、鼓はそれにすら腹が立つらしく返事もないままリビングを飛び出した。
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