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夏休み 23

side遼介 腕を引かれている間、急展開に追いつけず呆然としていた。 鼓も無言で自分の部屋に進んでいる。 あの顔に見覚えがある。しかしそれを口に出していいものなのか迷っていた。もしあの人がそうなら、鼓は…。 広い部屋でようやく鼓の部屋に着くが、彼はそのまま動こうとしない。徐々に手をおろし立ち尽くす。 「風呂…ごめんなさい」 「気にしないでいいよ」 「も、もし入りたいならっ」 振り返った鼓の目元が少し赤く、今にも泣きそうなのがわかる。風呂のことは全くもって気にしていない。俺が気になるのは鼓の事だけだ。 腕を引っ張って抱き込む。鼓は驚きこそしたものの素直に受け入れた。 「大丈夫だから」 「……はい」 震えはしていない。けれど精神的に疲れているだろう。嫌いと言っていた父親と顔を合わせることになってしまったのだから。 背中に回った鼓の手が俺の服を掴む。 「つーくん」 「…」 返事がない。 「あれは、あの人は」 「……」 無言を肯定と受け取るべきか、拒絶と受け取るべきか。迷ったが、ここで聞かなければならない気がして言葉を続ける。 「…鼓は、」 「おれの、なまえ」 言おうとした時、鼓が遮った。メガネを掛けていることも厭わず顔を埋めている為声がくぐもっている。 「名前…鼓、だよね」 「……鼓です。涼川…」 「うん」 促すように髪にキスをする。深く息を吸った後、鼓は意を決した様に言った。 「鼓·ルイス·涼川。父親はジャン·ルイス。母親は涼川眞白」 「…………うん」 ああ、やっぱり。そう思う他なかった。 鼓にはあまり言いたくはないが…ある程度調べは着いてしまっていた。ただ、確証が持てなかった。 それに、待っていると言った手前……正直罪悪感があった。調べて欲しいと言った後に鼓に待っていると言ったため本当に時期が悪かった。 ――涼川眞白について調べた際、彼女の息子は:死因不明の死亡だ:、と書類には書かれていた。。こういう書き方をする時は大抵闇医者や裏稼業が関わっている。 彼女の現在の旦那は医者だが裏と繋がっているという話も出ていた。それから推測すれば……息子は生きているか、売られたか。 どちらにしろ悪い方に違いなかった。 鼓は1度、母親に戸籍上で殺されている。 side遼介 終了

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