391 / 437

涼川 鼓 1

side鼓 言ってしまった。 遼介は短く返事しただけでその後何も返してくれない。何を思ってるのか、分からない。 騙された?嘘つき?どうして話してくれなかった? 怖い、怖い、こわい。 ジャン·ルイスと言えば、知らない人はいない大企業の社長で。 涼川眞白と言えば、知る人ぞ知る有名なヴァイオリニストで。 俺は、その人たちの息子で…。 でも報道とかはされていない。ジャン…父さんが俺を自分の息子だと認めなかったから。母さんも俺が産まれる前に離婚して1人で俺を育てた。途中まで。 名前は、母さんの姓を名乗っている。ルイスは嫌だったから仕方なしに…。 贅沢とかそういうのは全くしたことがない。むしろ、劣悪…だった。 鼓、と呼ばれて恐る恐る顔を上げた。何を言われても受け止める覚悟で。 なのに遼介は、優しい顔をしていた。 「なん、で」 「ん?」 「なんで問い詰めないの?」 そう言うと遼介は困った顔をした。 「鼓が勇気を持って俺に話してくれたことが嬉しいから」 「……」 なんで、この人は、こんなに優しいんだろう…、 「俺遼介のこと騙して…」 「騙してないよ。話せなかっただけ。……こんなに大きいこと抱えて、しんどかったでしょ」 嗚咽が漏れそうになる。涙も零れそう。遼介が俺の頭を優しく撫でるから…。 「〜っ泣きたくないのにいぃぃ…」 「泣いていいよ」 今泣いたら話さなきゃいけないのに話せなくなるのが嫌で、奥歯を噛んでぐっと堪え抵抗しようとする。 「だめ」 でも遼介は俺の口に指を入れてそれを阻止した。指があったら、噛めない。上目遣いをしてみるけど、かわいいけどだめ、と言われて諦める。 そしたら涙がぽろぽろ流れてきた。 「だっ、て俺……権力とか富とか嫌いとか言いながら、自分資産家の息子で…っ」 「でも理由があったんでしょ?」 「う、……」 「つーくんは理由なしにそんな事しないって知ってるから」 「うーーー…!」 ぽかぽかと優しすぎる遼介の胸を叩いた。

ともだちにシェアしよう!