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涼川 鼓 3
物心着いた頃には、父親は居なかった。
俺が産まれる前に2人は不仲になり、離婚した。
だから母親が俺を育ててくれていた。有名なヴァイオリニストだったのに、俺を産んでからレッスンそっちのけで構ってくれて。母親として強いひとだったと思う。
俺もそんな母さんが大好きだった。
3歳の頃、初めてヴァイオリンに触れた。
母さんがたまに弾いているそれを俺もやってみたくて。見様見真似で玩具として買ってくれていたヴァイオリンを弾いた。
今思うとあれは玩具ではなく本当のヴァイオリンだったのだと思う…。
それを見ていた母さんはすごくすごく喜んでくれた。俺にヴァイオリニストの才能があるって。
そこから毎日母さんと練習した。俺の存在は隠されていたからコンクールとかには出れなかったけど、母さんが褒めてくれればそれで良かったんだ。
「おかあさん、おかあさん」
「なぁに鼓」
ヴァイオリンを弾いていた母さんの服を掴んで気を逸らす。母さんは嫌な顔ひとつせず俺の背丈に合わせてしゃがんでくれた。
俺は玩具のヴァイオリンとエリーゼのためにの楽譜を母さんに差し出す。
「えりーぜのためにって、これでひけるの?」
「まあ!カバーにまで興味を示すだなんて!!やっぱり私の鼓は天才だわ〜!」
母さんが僕を抱きしめる。暖かい、母さん。
実際、自惚れではないけれど才能はあったのだと思う。母さんが知り合いのオーケストラに頼んで、俺が5歳の頃にはそこで演奏したりしていたし。
物応じない性格のおかけでで、誰もいないコンサートホールだったけど、みんなに囲まれながらも緊張することなく才能を発揮した。
お母さんは観客席で聞いていて、演奏が終わるとすぐに飛んできて俺を抱きしめた。
「鼓ー!今日もよかったわよー!」
「お母さん、苦しい」
息できないくらい抱きしめられる。ぺしぺしと腕も叩いた。
「眞白ちゃん鼓くん潰れちゃうわよ〜」
ピアニストの人からそう茶化され慌てて母さんは俺を離した。
「あら!ごめんなさいね鼓」
「ううん!お母さんが喜んでくれるなら僕も嬉しい!」
「〜!かわいいー!」
そしてまた俺は呼吸出来なくなって、今度こそ母さんはチェロの人に引き剥がされた。
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