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涼川 鼓 9
……2人きりでよかったのに。
今までの厳しさが嘘かのように、ある時を境に母さんは時々家を空けるようになった。もちろん俺は部屋に監禁されて、外のを様子を窺い知ることは無かった。
でも母さんの興味がなにかに移ったことで図らずも家での自由時間ができた。
枷は付けられていたけど、壁に繋がれていた鎖は解かれ直接足にまきつけるタイプになった。おかけで時間はかかるが家の中を動き回れる。
俺は、その時には完全に母さんに依存する形になっていたから、食事も自分で用意出来ないし服の着替えも出来なくなっていた。
人間、1年あれば廃人になれる。
俺ができることといえば、ヴァイオリンの練習と…禁止されたテレビを見ること。
ヴァイオリンはともかく、テレビを見てることがバレれば叩かれるだけで済まないとは思う。
というか一度バレて叩かれ壁に叩きつけられてご飯抜きにされてるけど。
でも無機質な部屋で一人でいると気が狂いそうで…。
テレビは色んな情報を伝えてくれる。何も分からない俺に知識を与えてくれた。
特に気に入っていたのは教育番組。英語の授業を見ている時がすごく楽しかったのを覚えている。行けもしない外国に想いを寄せるのは少し寂しかったけど。
そうして母さんが居ない時に暇を潰していたらテレビで虐待の話があがった。子供を殴る蹴るなどして殺してしまった、食事を抜きにして餓死させたなど。
「……愛のある、虐待はなんなんだろう」
そう1人呟く。母さんは俺が大好きだから監禁して、世話をする。でも殴る蹴るはニュースの通り、虐待。
分からなくなった俺は自然と虐待のニュースが出た時にテレビから視線を離すようになっていた。
7歳の誕生日。母さんは朝からせっせと料理の仕込みをしていた。俺の好物に混じる酒のつまみはまるで誰かを待っているようで。
「お母さん、誰か来るの?」
「鼓にね、会わせたい人がいるのよ」
傍に来た俺に母さんはしゃがんで嬉しそうに言った。
カーテンが閉められた室内にいるせいか俺の身長はあまり伸びず、母さんはいつもしゃがんで俺と喋っていた。
「会わせたい人」
ここでお母さんだけでいいよと言えば逆鱗に触れるだろうか。そう思いつつ口を開けば俺が言葉を放つより先にインターホンが鳴る。
俺はいつもの癖で2階の監禁部屋に行こうとしたけど母さんに止められた。どうやら会わせたい人が来たようだった。
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