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涼川 鼓 11

足が切られたらどうなる?動けなくなる。どこにも行けなくなる。風呂に入れなくなる。いや、それだけじゃない。まともな日常生活が送れなくなる。本当に、何もかも母さんに…。 瞬時に頭の中を色んな考えが:(よ)過ぎる。こわい、母さんが怖い。 「あ、足ごとは切らないわよ!ただ足の腱を切るだけだから立ったりは出来るの。けど走ったりは出来ないわ…あ、でも安心して、ヴァイオリンは弾けるわよ」 だから大丈夫よ、なんて言われても俺は微塵も安心できなかった。俺の怯えを知ってか知らずか、2人は微笑み合う。 「清さんはお医者様でね、私の考えに賛同してくれたのよ」 「僕は小児科でね。色々と経験不足な面があったから眞白さんの話を聞いてつい頷いてしまったんだよ」 「私が鼓を怪我させちゃったりしたら、清さんが治してくるのよ」 「そうそう」 頷き合うふたり。利害関係の一致…そんな言葉が浮かんだが、それよりも嬉しそうにそんなことを話す母さんの異様さに怯える。清さんにも。 こんなお願い、聞けるはずがない。おかしい、2人ともおかしい。俺が怪我したら清さんが治す?まず、俺が怪我するのが前提ってことなの?なんで母さんはそれに同意したの?足を切るって、そしたら清さんが治して…それで俺は、閉じ込められるの? 冷や汗が流れ落ちる。歯がガチガチと音を立てて震える。どうにか、しないと…。 そして俺は今日が自分の誕生日だと言うことを思い出す。 これだ、と思った。 「お、おかあさ…きょう、ぼくの誕生日だよね?」 引きつった笑みを浮かべながら母さんにそう問うた。そうよと母さんは返す。 「お願い聞いて…」 母さんはあっと声を上げる。 「そうだわ、私のお願いよりも鼓のお願いを先に聞かなきゃいけなかったわ…ごめんなさいね鼓。お願い事はなぁに?」 リビングの方に向かいながら俺は母さんを見つめる。言えば怒られるだろうか、叩かれるだろうか…。でも、言えるのは今だけだから。 息を吸い込んで一気に吐き出した。 …この時俺はまだ母さんが俺の話を聞いてくれると思ってたんだ。無意味な行為、なのに。 「僕ずっとお母さんのそばに居るから…お願い足切らないで…」 震える声でそう言えば、母さんはぴたりと歩みを止た。

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