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涼川 鼓 13

この人は、自分が経験不足という理由で、母さんに俺を傷つけさせて、治療して…そんなおぞましい事をするつもりなの? ……もしかしたら最初からそのつもりだったのかもしれない。母さんが足の腱を切ると言ったのも、実はこの人の案かもしれない。 脳が理解することを拒否する。分からない、分かりたくない。 「鼓」 抑揚のない声が、母さんの声が、俺の耳に届く。 「お母さん、鼓が悪い子だと悲しいわ」 俺は懇願するしかなかった。非力だった。 「お母さん、ぼく、いいこにするから…」 肩を抱かれた母さんが俺の目を見る。そこに俺は映っていない。 「鼓がいい子になるまでお母さん頑張るわね」 笑う、女の人。これは、母さんじゃない。 それからの生活は酷かった。母さんは俺が自ら足を差し出すまでずっと、暴行を加え続けた。 ある時は棒で叩き、ある時は包丁で切りつけ、ある時は熱湯をかけて…。 でも辛いのは、それら全てを清さんが治療する事だった。いっそ死んでしまえたらと思うほど辛いのに、清さんの腕は皮肉なことに素晴らしく綺麗に治ってしまう。傷1つなく。 きっとこれでは外に出ても、例えば警察に行っても信用されないのだろう。逆に家に返されてもっと酷い目にあうだろう。 まず外に出る気力すら奪われていたのだが…。 毎日繰り返されるそれ。気づけば食事も与えられず自室に枷をつけられ転がされる日々。 「……ぼくが、わるいのかな」 ひび割れた唇から溢れ出る声はまるで自分のものじゃないようだった。 「………ぼく…なんでここにいるんだろう」 自問自答をする。もちろん答えはない。誰も答えてもくれない。 今家にいるのは清さんと俺のみ。清さんは基本母さんが何をしようと黙認し、俺が怪我をした時以外関わりを見せようとはしなかった。 本当に僕を実験体としか扱っていない。傷跡が残らない辺り技術は素晴らしいとは思う。けれどそれは俺という犠牲の上に成り立っているんだ。 それに今日、母さんは出かけていて夜まで帰ってこない。……おそらく検診だろう。 一昨日だったか昨日だったか、母さんは嬉しそうに俺に子供が出来たのよ!と言ってきたのだ。 最近よく吐き気がすると言っていたのはそれだったんだなとその時合致した。 俺はぼんやり母さんを見つめながらおめでとうと言った。 「ありがとう鼓。赤ちゃんが産まれる前に鼓もいい子になれるように頑張ろうね!」 笑顔で水風呂に突き落とす母さんは本当に俺がこんなことでいい子になると信じているんだろうか。考えるよりも先に鼻に水が入ってきて、思考は停止した。

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