407 / 437
涼川 鼓 15
清さんは両手を上げて部屋のドアの方へ。
「眞白の教育の賜物だね。ほんと、可哀想で可愛い」
「こわい、」
体を縮めこませる。小さくなっていると痛みが軽減されるように感じて癖になっていた。痛いことが来る前に痛みを緩和させる行動を取れば良いという安直な考えだった。
「怖くないよ。僕もう外に出てるから安心して。何かあったら…うーん」
少し悩んで、清さんはポケットから折りたたみ式の携帯を取り出し何かを操作し始めた。そして俺に気を遣ってか、それを部屋の真ん中辺りに置く。
「それの僕のサブ携帯。眞白が帰ってくるまでそれ使ってていいよ。眞白には仕事用の携帯に連絡するよう言っておいたから」
じゃあ何かあったらそれで呼んでねと言い残して清さんは部屋から出て行った。階段を降りる音をちゃんと聞いてから、ずりずりと匍匐前進しながら携帯に近寄った。
開いてみても使い方はほぼ分からないけど、電話のマークがボタンに記載されているから多分これをかければ良いのかなと考える。でも押してもよくわからないメニューが開かれるだけで何か音が鳴るわけでもない。
置いておくなら使い方くらい教えろと心の中で悪態付く。…というかなんで、こんなもの。今までみたくほっとけば良いのに。
俺は意味のわからない行動にイライラして携帯を放り投げた。
そんなことがあってから数ヶ月後、俺はお腹を大きくした母さんによって階段から突き落とされた。もうすぐ臨月で最近情緒不安定になってしまっていたのだ。その結果が、これ。
「鼓、どうして私の言うことが聞けないの…お母さん、こんなに鼓を愛しているのに。お母さん、もう鼓を愛せなくなっちゃうわ…」
母さんは額から血が出る俺を見て、泣いていた。こんなことをしてごめんなさい、じゃなくて、言うことを聞かない俺に対しての怒りの涙だった。
俺だって母さんのことが大好きだったからなるべくお願いは聞いてあげたかった。でも、足を切らせるのはどうしても嫌だった。…いつか母さんとまた外に出られた時に、走れなかったら困るんだ。
動かない、動く気力すらない俺を見て流石にまずいと思ったのか、母さんは仕事から帰ってきた清さんに泣きついた。清さんは状況をすぐ把握して俺を病院に連れて行くことにした。自宅治療では限界だったらしい。
付き添ったのは母さんじゃなくて清さんだった。母さんだと取り乱して余計なことを言うかもしれないからだと思う。俺の虐待の件とか。
ともだちにシェアしよう!