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涼川 鼓 16

「目はこっちを追ってるから意識しっかりしてると思う。そこまで心配しなくても良いと思うけど、頭の怪我は怖いからね」 後ろで慌てふためく母さんにそう説明しながら、清さんは俺を後部座席に寝かせた。 頭のところにタオルで作った簡易的な枕が置かれる。痛いような、痛くないような。 痛みに慣れてしまっているせいか、痛覚が死んでしまっているのか。どちらにしろこの状態はきっとよくない状態だから感じなくて良かったと思う。 「気分悪いとかない?吐き気とか」 「…フラフラするだけ」 素直にそう伝えればちょっと心配だねと返される。心配する意味がわからない。この間の携帯だってそう、どうして俺を気遣う素振りを見せるのか。 走り出した車の行く先は清さんが働く病院。でも表の病院じゃなくて裏の病院らしい。 彼は時に表できちんと小児科医としての仕事を請け負い、時に闇医者として病院に来られない人を治療したりしているようだ。なるほど、だから俺という練習台が必要だったんだと理解した。 車の目地をぼんやり眺めていると車が信号で一時停止する。 「…ごめんね」 独り言のようなそれが自分に向けられていると、気づく訳がなかった。再度言われてようやく気づく。 「なんで謝ってるの」 「眞白がやりすぎたからだよ」 「今まで止めてもくれなかったのに」 まぁそうだねと前を向いたまま彼が答える。ムカつく。謝るくらいなら母さんを止めてくれればいいのに。何もしないくせに、無関心だったくせに。 いっそ座席を蹴ってやろうかと思ったけど、そんな力もないからやめた。 「僕は表で小児科医をしているから、虐待された子供も時折見るんだ」 「…へぇ」 急に語り出す清さん。よく良く考えれば、この人小児科なのに自分の息子は助けていない。義理の息子だから? 「君みたいな子もよく見る」 「小児科医なのに、僕のことは無視してるんだね」 思ったことをそのまま口にする。 「……難しい言葉、知ってるね」 話を逸らされた気がした。イラッとして力を振り絞って運転席のシートを殴る。ぽすんと軽い音がしただけだから、多分響きもしていない。 「どうでもよかったんだよ。僕が好きなのは眞白で、君じゃなかったから」 「それ、僕を目の前にして言うこと?」 さらに腹が立つ。なんなの、喋らないでよ。 「……前にも言ったと思うけど、君の容姿は自覚なく人を惹きつける。そんなことなかったかい?」 また話が逸れた。本当にこんなので医者やれてるの?という嫌味は、母さんが襲われかけたシーンを思い出したことで消えた。

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