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涼川 鼓 17
あるみたいだね、と言われてぐっと言い淀む。確かにあれは元はと言えば俺を変な目で見ていた奴が原因だった。
でも自分の容姿って言われても、あまり鏡は見ないし外に出ることもほぼないから自分では分かりようがない。
考え込んでいると清さんがそのまま話を続ける。
「さっきの話の続きをするなら…僕は小児科医だ。子供が嫌いなわけじゃない。そして、僕は君の容姿が気に入って、さらには情が湧いたんだ」
情が、湧いた?
バックミラーを見たけど寝転がっているからって顔が見えるはずもなく、どんな表情をしているのか分からなかった。
とりあえず信用ならないからうそ、と答えた。そもそも容姿が気に入ったって理由が気に入らない。
「そう思われても仕方ないけど本心だ」
「うそだ」
「嘘じゃない。君が未だに持っているその携帯が真実を物語っているだろう」
「…」
ポケットに入れられた携帯を捨てたくなった。
――数ヶ月前に渡された携帯。次の日の朝返そうとしたら持っていろと言われた。いつでも連絡が取れるようにと。
その頃母さんのつわりは酷くなっていて、暴力は振るわれなくなり本を読む時間がたっぷりあった。だから携帯は辞書として有難く使わせていただいていた。
…使い方も、教えてくれていた。
「なんで助けてくれなかったの」
再度問うと、僕が愛してるのが眞白だからと先程と同じ返答が返ってきた。この人理解できない……。話を聞く気にも慣れず口を閉ざしたけど、清さんはまだ喋っていた。
「あと、僕が君に情が移ったと証明できることがもう一つある」
ため息をついてなに?、と聞いてみる。
「こうして君を連れ出していることだ」
…連れ出してるって…。痛みも無視してすぐさま起き上がった。山の中で周りは家ひとつない、鬱蒼とした景色。この車病院に向かっていないかもしれない。
「降ろして!!」
どこへ連れて行かれるのか分からない恐怖から叫んだ。
「ここで降ろしたら死ぬよ」
「っ卑怯だ!」
「何を焦っているのか知らないけど、ちゃんと病院には向かっているよ。ただ裏の治療施設の方だから場所が山の中なだけだ」
「うそ、嘘!」
落ち着きなさいと言われても、こんな状態でどう落ち着けば良いのだろう。パニックを起こして叫んでいたら、清さんが急ブレーキを踏んだ。俺は座席から転げ落ちかけた。
「……眞白が…君を、殺して欲しいと言ったんだ。だから連れ出すしかなかったんだ……」
文句を言おうとして開いた口を、閉じた。
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