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涼川 鼓 20
廊下の一番奥に扉が一つ。なんの変哲もないその扉が開かれ、想像より豪華な部屋が見えた。
左の壁際に広いベッド、その横にテーブルに椅子。右には壁掛けのテレビがあって、その前にソファーがある。棚みたいなのもあって洋服はかなり多く収納出来そう。
ホテルの一室みたいなのに、大きな窓には格子が付いていてそこだけ不自然だった。
「有名人に権力者、闇家業の方々御用たちの部屋だよ」
そっと床に降ろされる。と同時に振り返ってほぼ筋力のない足を使い走り出した。もちろん意図も簡単に捕まる。
「やると思ったよクソガキ!」
「っ行動先読みすんな!」
首根っこを掴まれそのまま引き摺られながらベッドに連れて行かれた。最悪最低離して変態馬鹿触らないで、と思いつく限りの罵詈雑言を言ったけど彼は俺をベッドに放り投げた。
腹が立つほどベッドは柔らかく、痛みはない。
「いいかい、君は絶対安静なんだ!走っていい体じゃないんだよ!」
清さんの説教じみた発言に、カチンときた。なんだよその言い方、そうやって気にするならどうして助けてくれなかったんだ。
「今までお母さんが僕になにしようと無視してきたくせに!」
「それは彼女が君に愛情があると思っていたからだ!実際は……、っ」
いきなり言葉が止まり、清さんはしまったという顔をする。そのおかげで考えたくなかった思考が脳裏をよぎった。死亡届を出してくれと言う母さん、愛情があると思っていたけど実際はという彼の言葉。
……母さんは、俺を愛していない。
いつから、?
「だから、死亡届…清さんは、知ってるの、いつからお母さんが僕を愛していなかったのか」
さっきまでの苛立ちは、もう消えている。だから淡々と聞いた。
「そ、んなことはない、眞白は君を愛して―」
「もういい」
目の前が、暗くなる。疲れなのか、瞼が閉じてくる。
「…………少なくとも、君に弟ができると話した頃には、俺に色々話していたよ。もう、要らないとか」
「ふうん…」
靴を脱がされる感じがする。甲斐甲斐しく世話を焼くのは、車の中で話した通り情が湧いたからみたい。でも、もうどうでもよくなっていた。
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