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涼川 鼓 21

母さんから引き離されて数日。家に帰っているのかと思うほどの頻度で清さんは俺の病室に通っていた。鬱陶しいことこの上ない。 そして今日も、ノックと共に偽装のためのカルテを持って彼が病室に入ってきた。俺は持っていた本を閉じて、窓の外に目をやる。しかし清さんは気にすることなく俺に話しかけてくるのだ。 「また食事を残したそうだね。食べないと本当に倒れるよ。まあその前に点滴打たせるなりなんなりするけどさ」 「…あれ嫌い」 「君偏食だっけ?いやでも、前は食べてたよね」 運ばれてくる食事は胃腸にやさしいお粥ばかり。まともに食事が摂れていなかった体に普通の食事は無理だと診断された結果だ。 しかしこれが非常に味が薄く美味しくない。病人食の不味さを思い知った。だから素直に味が薄いから嫌いだと清さんに告げた。 「そこは流石に我慢して…」 苦笑された。 その後も、彼はわざわざ木の椅子をベッドの脇に置いて延々俺に話しかけてくる。うざい。俺は窓の方を向いて、一切見ないようにしていた。 「本当に……そういうところが可愛いんだけどね」 まただ。この人は最近ずっと俺に構い、そして可愛いと言ってくる。なにをどうしたらこの無愛想さを可愛いと思うのか理解できない。 眉を顰めてやめてと言う。なのに清さんはどうして?と平然と返してきた。 「可愛いって言われるの嫌い」 「好き嫌いはよくないよ」 食べ物の話じゃない!と怒鳴って清さんの方も向いた。清さんは俺と目が合った途端破顔し、嬉しそうにやっとこっち向いたと言う。別にあんたのために向いたわけじゃない、と睨め付ける。 「なんで毎日来るの。母さんわどうしたの」 「心配しなくても毎日寝には帰ってるしフォローもしてるよ」 「……俺がいなくなって、気が休まってる?」 「…………」 無言は肯定だ。実際母さんは俺に愛想を尽かしていて、だからこその虐待だった。俺は愛されていなかった。もしかしたら俺は愛情をくれなかった父さんの身代わりだったのかもしれないと、最近思うようになった。そう考えると俺は本当に母さんに愛されていたのか、それも分からない。最初から俺は……。 「…鼓くん、いつの間に一人称を“俺”に変えたんだい」 沈んだ思考に彼の声が届く。 「え、なに」 「いつの間に一人称変えたんだい」 「…今日から」 何故か気恥ずかしく感じ、適当に誤魔化した。

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