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涼川 鼓 22
時間の経過は早い。でも考える時間は山ほどあった。
よく考えれば、様々な点が尽 くおかしい事で。
本当に情が湧いたというなら施設に送り付けるべきだし、病院にいさせ続ける理由もない。
施設行きだとしても隠蔽が得意なのだから母さんから俺をどうにかして隠せたはずだ。しなかったのは…、結局俺を手元に置いておきたかった、それだけなのだろう。
だから俺は…病院に一年以上監禁されることになった。本当に頭のおかしい人で、俺と住む家を探し続けていたらしい。
母さんはどうなんだろうと思っていたけど、俺は母さんの話を聞くのも嫌だったから聞かなかった。でも時々清さんが話してくる内容から憶測するに、弟が産まれて安定しているようだった。……お幸せに。
清さんは母さんと俺の板挟みに合い、結局母さんを選んで死亡届を出したらしい。死因は知らないけど。清さんは闇医者らしいし、死因なんていくらでも思いつくし不正に提出できるんだと思う。
俺はこの世から居なくなった。
じゃあここにいる俺はなんなんだろう。寝起きをし、食事を取り、排泄をして、思考もする。でもこの世界に俺という存在はもういない。
悲観したいけれど、悲しむより先に清さんが毎日押しかけてくるからする暇もない。今日も来ている。
彼はようやく気に入った家を見つけたらしく、それを俺に見せにきていた。嬉々とした表情に俺は軽くため息をついた。
「鼓くん、家の内見に行こうか」
「行かない」
「俺と一緒に住むのはやっぱり嫌?」
「……………嫌じゃ、ないけど」
友達もおらず、母親にも裏切られ、唯一関わりがあるのは清さんだけ。まるでストックホルム症候群のように、俺は清さんに懐いていた。俺たちの関係は微妙で…、複雑になっていた。
「大丈夫だよ、俺が愛してあげるからね」
「なんか言い方キモい」
「君の減らず口は変わらないね…」
俺の言葉に清さんはがっくりと肩を落とした。そんな彼の頭をなんの気無しにぽんぽんと優しく触ると、彼はパッと顔を上げて驚いた顔をした後嬉しそうに笑った。
俺から触ることはあっても、清さんは基本俺に触らない。理由はわからないけれど、着替えの時も絶対退出するし検査の時も服の下から聴診器を入れるとかして裸も見ない。
別段それが気になるという訳ではないけれど…。この間読んだ本にペドフィリア――小児性愛者についての記述があったからなんとも言えない気分になってしまう。清さんは俺をそう言う目で見ているんだろうか、と。
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