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涼川 鼓 24

「鼓くんはいつになったら僕に好きだって言ってくれるのかな」 俺の気持ちに気づいている清さんがニコニコ笑う。本当にその笑顔を今すぐ殴りたくなったけど、たまには素直になろうとそのうち…と小さく言った。 「楽しみだなー。まぁこれからはずっと一緒なんだし、気長に待つとするよ」 「ずっと?」 「うん。ずっと、僕と一緒にいよう」 好きだとは言われていない。けれど彼の態度を見ていれば気づける。一緒という単語に妙に安心して、抵抗せずに抱き上げられた。サービスとして珍しく首に顔を埋めてあげるとよっしゃ!という声が聞こえて、笑う。 「鼓くんの笑い声初めて聞いた、やっぱりかわいいね」 「殴るよ」 このままの生活がいいと、正直にそう思った。いや、このままの生活であることを俺は祈ったんだ。 車に戻ると彼は俺を後部座席に乗せて運転を始めた。久々に外に出たせいか疲れて眠くなりうとうとしていた時、彼の携帯から着信音が流れた。 話している内容は眠気のせいで朧げで、ただ少しの間知り合いに預ける、一週間ほどしたら迎えに行くと言われたのは覚えている。事実、俺は清さんの知り合いだという家に預けられたから。 でも結局、彼は一週間経っても迎えに来てくれなかった。 ―――実は、これ以降の記憶は曖昧になっている。 預けられてから半年ほどの記憶がほぼ飛んでいるんだ。 何があったのか知らないらしい清さんの知り合いに、暴言を吐かれたような気がする。殴られてはないけど、精神的に追い詰められたと思う。捨てられたんだと言われて、本当にそうなのだろうと思い込むほどにその時の環境は劣悪だった。 知り合いの家族は5人家族で、誰かが、俺を犯そうとして、家がめちゃくちゃになった、ようだった。人間、本当に嫌な記憶は消えてしまうらしい。ただし潜在意識下では覚えていてふとした瞬間思い出す。いまだにその時のことを悪夢に見るから、本当に起こった事なんだろう。 そしていつだったかそこから逃げ出して、どうやってたどり着いたかも覚えていない海で突っ立ってたら声をかけられて。目が合った途端抱きかかえられてそのままちゃんとした病院に連れていかれた。 それが、父さんだった。 父さんは、俺を探していた。母さんに電話をかけても出ず、2人が心配なって…そんな戯言を言っていた。 父さんは母さんと話し合いをして、俺は再び生を取り戻せた。どういう会話をしたのか、清さんがどうなったのか、聞いても父さんは答えなかった。全て隠蔽されて、全部お前には関係ないみたいに扱われて。 そうして何にもわからないまま、俺は外国に連れて行かれた。

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