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喧嘩するほど仲がいいなんてことはない 4

鼓が話している間遼介は一言も話さず黙って聞いていた。ただ、包んでくれている手が時折強く握りしめられたりはした。鼓は顔をうつ向けていたため彼の表情を伺い知ることはなかった。 話してしまえば案外どうってことのない。けれど気分はあまりよくない。 (言い出しにくかったのは、遼介のことだけじゃない。学校で散々権力者は嫌いだ富裕層は嫌いだって言ってたくせに、自分がそれに値しているから…) 自嘲気味な笑みを張り付けて鼓は顔を上げた。 「権力者とか富裕層が嫌いとか言っておきながら、俺がそれらに値するって矛盾してますよね。でも俺自身はそんなこと関係なく小さい頃は過ごしてました。結局言い訳になっちゃうんだけど」 「鼓、なにも言わなくていいよ」 鼓の言葉が遮られる。ゆっくりと鼓は遼介の方を向いた。遼介は、怒った顔も憐れんだ顔もしていなかった。ただ、少し、悲しそうな笑顔をしていた。 その顔に鼓は胸が締め付けられる。 「で、も、俺遼介に普通の人だって嘘ついて」 「鼓は俺を騙そうと思って嘘ついてたの?」 「っそんなことない!」 「じゃあ、いいよ。俺は鼓がついてた嘘が悪い嘘だとは思わない。鼓は優しいから、俺がその話を聞いてこの後どうするかをそうぞうしてしまったのもあるでしょ?」 エスパーだ、と鼓が呟く。そうやって茶化していないと胸からこみ上げるものを我慢できなさそうだったから。遼介はそれに笑いながら、鼓専門のエスパーだよと言った。 「俺は鼓がどんな姿でも、どんな過去を持っていても、愛してる」 「~~~~っ」 必死に歯を食いしばって耐えたが、徐々に涙腺が緩み鼓の目から涙が溢れだす。 「お、おれ…ゆるし、」 「許すもなにも、鼓はなにも悪いことなんかしてないよ」 「うううぅぅぅぅ」 絡められた手をぶんぶんと上下に振る。遼介は鼓のその謎な行動に笑いながらかわいいと言う。 (遼介が優しすぎて…俺、死ぬかもしれない。なんでこんな話聞いて笑ってくれるの、なんでまだ愛してるって言ってくれるの) 胸の内に溜めた声は、口から出ると嗚咽に変換されてしまって、ちゃんとした言葉にならない。えぐえぐとひたすら泣く。 鼓は上手く泣けない。泣き方を知らないからだ。 鼓は声を出して泣けない。つられて母親も泣いてしまうからだ。 だから、鼓は声を出さず、自分が泣いてることにも気づかないほど綺麗な泣き方をする。 遼介と出会ってから、鼓は泣き方を覚えた。声を出してもいいのだと、自分は愛されているのだと、遼介が教えてくれたからだった。

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