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喧嘩するほど仲がいいなんてことはない 6

ゆっくり、まだ行動に戸惑いがありつつも、鼓は起き上がって床に足を下ろした。しかしまだ立ち上がらない。 それを見兼ねた遼介も起き上がった。 「俺もついて行くから聞きに行こうか」 「……遼介も着いてきてくれるの?」 俺のことなのに?と鼓は遼介を見上げる。遼介はもちろんだよとにこやかな笑顔を浮かべた。 「俺もつーくんのしんどさ、分けさせて?それに、つーくんの彼氏としてちゃんとご挨拶しないと!」 「後者の理由が主な理由な気がするの気のせいですか?」 遼介は慌てて弁解した。 下の階に降りながら遼介は気になってたことがあるんだけどと鼓に声をかけた。若干鼓の顔色が悪いため、気を紛らわそうとしているようだ。 「鼓の持ってたヴァイオリン、あれ名前のとこがT.Ouでそのあと削れてたんだけど。Tは鼓だとして、Ouって?お父さんの名前ジャン・ルイスだよね?綴りが全く違う気がするんだけど」 「ああ、あれ…捨てたのに帰ってきたやつ」 恨めしそうな鼓。以前校長が解雇され、鼓がもう弾く要らないからとヴァイオリンを捨てた時に、遼介がわざわざ持って帰ってきたことを鼓は言っているのだ。 「そんなホラーチックに言わないでよ無理やり持って帰ってきてごめんって…そうあのヴァイオリン」 「……あの人の名前、ジャン・ルイス・オウシールドなんですよ。だからあれには”T.Oushild”って実際には書かれてました」 「…なんか世界の誰もが知りたがっている情報を手に入れてしまった気がする」 ジャン・ルイスのフルネームは公開されておらず、遼介が初めて知る人物となった。 「あのヴァイオリン俺がが小さい頃から使ってたやつで、清さんに連れ出された時に行方不明になったんです。でも父さんに海外連れ出される時に渡されて。今更使えって言うのかって腹立ったんで目の前で名前のとこ削ってやりました」 「つーくん、それ、多分オーダーメイドだよね…?」 「だから余計です。多分作ったのもアイツです」 階段を降り終えた鼓はくるっと遼介の方を向く。口元は笑っているが、目が笑っていない。 「遼介はジャン・ルイスがどんな仕事してるか知ってますか?」 「色んなことしてるよね…でも俺がよく知ってるのは楽器類かな」 「そうです。俺が産まれる前に、母さんが父さんに言って作ってもらったらしいです。……そのあと離婚したらしいですけど」 あまりに鼓があっけからんと言うため、遼介はなんとも言えない顔をして鼓を抱き寄せた。

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