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喧嘩するほど仲がいいなんてことはない 8

まるでいきり立つ猫のように今すぐ家を飛び出していきそうな鼓だったが、遼介になだめられてどうにか落ち着いた。 そのままリビングに通され、促されるまま遼介と鼓はソファーに隣り合って座る。テーブルを挟んで反対側にジャンも座った。無表情だが微妙に気まずさを感じているのか、ジャンが手を組む。 「今日はもう下に降りてこないだろうと思っていた。顔を合わせたくないだろう」 約束事である”顔を合わせない”を守ろうとしているジャンにそう言われ、鼓はそういう律義さにすら苛立ちを感じた。それを隠しもせず、ジャンに仕事はと不愛想に聞いた。 「先方から急遽会議を欠席したいと連絡が来てな、今日の仕事はそれだけだったから休みになった」 「へぇ、父さんとの会議に欠席できる猛者なんているんだね…」 ジャンの立場からすれば会議が中止されることなど些細なことだろう。しかし相手はどうだろうか。ジャンとの会議、契約に漕ぎつけることはかなり難しく、今回の会議でどれだけ相手は被害を被るのか…。 鼓の言葉にジャンは頷くだけでリビングにはまた沈黙が流れた。鼓は口を開いては閉じてを繰り返しており、言葉を詰まらせている。 (罵倒ならいくらでも出るのに、真面目な話になると全く言葉が出てこない。そもそもこの人とまともに会話したことないし…。母さんのこと、あの人の事、父さんのこと…知りたいけど、知りたくない) 未だ葛藤する鼓に寄り添うように、遼介の手が鼓の手に重なった。顔を見れば、大丈夫、俺が居るよと言わんばかりに柔和な笑みを浮かべている。その暖かさに勇気を貰い、鼓は一呼吸置いてしゃべり出した。 「…………いろいろ、聞きたいことがある」 「ああ…。さっき言ってた眞白ことか」 「そう…え、っと…母さんは、…ほ、本当に俺をあいしてたの」 (もっと聞きたいことあるのに、これしか出てこなかった…) 長い静寂の後、ジャンは静かにもちろんだと言った。 「眞白がお前を愛さなかったことなど、1度もない」 「そう、なんだ…」 (俺、ちゃんと愛されてた。まだ聞きたいことあるけど、父さんの代わりだったんじゃないかとか、じゃあなんで俺を殺したのかとか…でもなんか少し安心した) ほっとして、鼓はすこし顔を緩ませた。遼介とも顔を見合せ一時的ではあるが緊張が解ける。 一方でジャンはどこから話すべきだろうか、と悩んでいるようだった。 「もうお前も17だ、話してもいい頃合だろう」 そうジャンが決断し話した事実はあまりにもどす黒く――悲しすぎる恋物語だった。

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