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夏祭り 5
カランコロンと下駄が鳴る。
「つーくん、足痛くない?」
「痛くないです、ありがとうございます」
遼介は鼓の足を気遣いながら歩いている。下駄は足を痛めやすいからだ。
遼介と鼓は祭りに来ていた。鼓の片手にはすでにいちごあめが握られており、それは遼介が買ったものだった。以外にも遼介は「え、カード使えないの?」などという金持ちムーブは交わさず、普通に現金で購入した。こういうところでカードが使えないことはさすがに知っているらしい。
鼓はそもそも自分が金持ちであるということを認めていないため(その金は父親のものだからだ)、普通に現金を持っていた。
「いちごあめの方が好きなんだ?」
「というより食べやすいからですね。りんごあめは大きすぎて食べにくいんです…」
「ああ、たしかにね」
ぱりぱりと音を立てながら鼓はいつごあめを頬張る。中からじゅわっと果汁が溢れて美味しい。
鼓がきょろきょろと辺りを見回してみれば、結構な数の露店があることがわかった。焼きそば屋、金魚すくい、お面屋、射的など、食べ物だけでなく楽しむ系の屋台も数多くある。
そおのうちのひとつを遼介が指さす。
「かたぬき、なんてのもあるよ」
「昔、母さんとやった気がします。俺、うまくできなくて泣いて。そしたら母さんがじょうずに猫の形を切り取ってくれたんです」
”ほら鼓!うまくできたわよ!”
そう言って母親はきれいに切り取られた猫を見せてくれた。
(そういや母さんは手先が器用だった。バイオリンを弾くんだから当たり前かもしれないけど)
懐かしい記憶に思いを馳せながら鼓は最後のいつごあめを口に放り込んだ。そんな姿を遼介はじっと見て、くいと鼓の腕を引っ張り端に寄った。
「遼介?どうしー」
「つーくん、Hしようか」
「っは?!」
思いもよらない、想像もしない言葉に鼓は目を白黒させ遼介を凝視した。なぜここでそんな言葉を、と言いかけたところで先に遼介が口を開く。
「つーくんが、あんまりにも悲しい顔してたから」
「…俺、悲しい顔してました?」
「うん。お母さんのこと、思い出すのつらい?」
考えてもみなかった、と鼓は呟く。母親の記憶を思い出すのがそもそも嫌だったのはあるが、それが悲しいからかと問われてもそうではないと言える。
ただ、思い出すのが嫌だった。悲しいわけじゃない、怖いわけじゃない、つらいわけじゃない。ただ、記憶の底に封印していたかったのだ。
それを素直に吐露すれば、遼介は忘れたくないんだねと言う。
(忘れたくない…確かにそうかもしれない。母さんのこと記憶の隅に追いやるのに気づいたら小さいころを反芻してた)
「俺、母さんのこと嫌いなのに…」
「きらいになれないんだね」
あんなことされてもまだ嫌いになれない自分がいた。鼓は頷いて、ありがとうございます、少しこのまま…と遼介の胸に顔を押し付けた。
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