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夏祭り 7
「でも俺ゲームしないんだよね」
ゲーム機を悠々ともらったものの、どうするべきかななんて遼介は言う。その発言に鼓は小声で、みんなでゲームしてみたい…と呟いた。
「え、そうなのつーくん」
「小さいころは母さんの友達とよくボードゲームなんかして遊んでて、でもすぐに母さんに閉じ込められちゃったから」
海外にいた時は慣れることに遊ぶことなんて考えていなかった。おかげで話すことはできるが海外の遊びなんて知らない。だからみんなで遊ぶことに憧れがある。そんな話をすれば、遼介は足を止めて真顔で早口で言う。
「さっきの店の商品全部買い取ってゲーム買おうか。ゲーム機当たるくらいだしゲームソフトも置いてあるでしょ」
「遼介?遼介、落ち着いて。買った方が早い。おじさんも心臓止まっちゃう」
鼓が両手を上げ下げして遼介に落ち着くように話す。しかし遼介の目は決まってしまっている。駄目だこれ、と思った鼓は遼介の背後に回って背中を押す作戦に出た。
「遼介!俺、焼きそば食べたいなー!あっち行きましょ!」
「………ほんとに?俺を止めるための嘘じゃない?」
「おなかすきました!」
「さっきたこ焼きとイカ焼きとラーメンとおでん食べてたよね…?」
「それじゃ足りない」
なんて貪欲。否、なんて大食い。
遼介はこれは本気で食べたい感じだと悟り、焼きそばの屋台の方に鼓に背中を押されながら歩いて行った。
鼓がおなかいっぱいになったのは、それから焼きそばと綿菓子とタピオカドリンクと焼き鳥各種とかき氷とフランクフルトを食べてからだった。食いすぎじゃないか、という言葉は遼介の口から出ることはなかったが、心の中でほんとうにその小さな体のどこに入ってるんだとは思っていた。
「さすがにもう食べれません」
「うん、すごいね…」
祭りは山の麓にある神社で行われているが、もうすぐ花火が上がるとかで近くの川辺にみんな移動を始めていた。鼓と遼介も例外なく川辺に移動している。
「祭りがこんなに楽しいなんて」
「つーくんは食べるのが楽しいよね」
「悪いですか?」
「いいえ。うちの王子がよく食べる様はとても眼福ですので」
ちょっとした言い合いも楽しい。鼓もにこにこで受け声をしていた。と、次の瞬間見知らぬ誰かの少し肩が当たり、遼介と鼓の間に隙間ができてしまう。あっと言う間もなく二人の間に人が流れ込んできた。
咄嗟に鼓が手を伸ばすと、遼介がすぐさま手を掴み、引き込む。
「っりょ」
「鼓」
遼介が引っ張ってくれたおかげでどうにか合流できたものの、混雑してきている状況でそう何度も通る技ではない。遼介は鼓の手を改めてぎゅっと握りしめた。
「手、繋いでようか」
「…うん」
小さく頷く鼓。
(なんか、照れくさい)
なんだかんだ進んでる二人だが、学校では手を繋ぐことなどほとんどない。そのためこのような行為がなぜかむず痒く感じるのだ。
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