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夏祭り 8
ある程度祭りを楽しめたため喧騒からすこし離れた河原に座る。
「楽しかったね」
こくこくと頷く鼓。その手には初めに食べたいちご飴が握られていた。デザートは別腹、と買っていた鼓を遼介は純粋にすごいなと思いながら見ていた。
ぱりぱり、と食べる中、遼介が帰りはおんぶで帰ろうねと言ってくる。え、と遼介を見れば遼介は鼓の足を見ていた。暗がりで見えにくいが、鼓の履いてる下駄の鼻緒がある親指と人差し指の間が赤くなっている。
(…バレちゃった。言わないようにしてたのに)
「なんで分かったの…?」
先程から結構足が痛くなってきていた。でも遼介に言ったらすぐに、帰ろうって言われると思って言い出せなかった。まだ、楽しみたかった。
「つーくんのことで分からないことなんてないよ」
「……好き」
思わず口から出た言葉。遼介は笑って、俺は愛してるよと言ってくれた。その言葉に顔が赤くなり俯いていると、
「あ」
川の向こう側から花火が上がるのが見えた。2人が座ったところはたまたま穴場スポットだったようで、周りにほとんど人がいないのに花火が綺麗に見えた。
その花火のおかげで、昔の記憶が呼び起こされた。小さい頃も、ここに座って母さんと見た記憶が蘇る。
『鼓!おいで!ここからの景色が1番いいのよ!』
『わあぁ!すごいねお母さん!!』
「懐かしい…」
そう言って花火を見続ける鼓の手を、そっと遼介は握った。
「ほんとに大丈夫ですか?俺結構思いですよ?」
帰り際、本当におんぶするつもりだったのか、遼介が片膝をついて鼓の前に座っていた。しかし鼓は天下の氷川様の背中に乗るなんて申し訳なくて乗れないでいる。
「いいからほら、早く」
「えっと…じゃあ、お邪魔します…」
そろそろと背中に乗る鼓。遼介はそのまま軽々ひょいっと立ち上がると、平気そうに歩き出した。
「遼介は足痛くないんですか?」
「俺は意外と大丈夫だから気にしないで」
「…はい」
そう言われてしまうと何も言えない。鼓は遼介の背中に揺られていた。
ゆらゆらと揺れる背中にぴたり、と頬をつけてみる。鼓動が聞こえる。それに何故か安心し、鼓は眠気と戦ったが最終的には負けて眠ってしまった。
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