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閑話:お腹が空かないの
「つーくん、どうしたの?」
食事中、突然鼓が箸を止める。いつもの鼓なら嬉々として食事をしているはずなのに、だ。
今日の昼食は珍しく食堂で摂っている。明日の生徒会集会のため生徒会室が使われてしまっており、生徒会が使えないからだ。
そうして食堂。遼介はあまり使わないため物珍しさを感じていたが、すぐにそんな感情はなくなる。なにしろ、あの鼓が突然食べるのを辞めたからだ。
「…ご飯、食べたくない」
ガタッと遼介が勢い良く立つ。すぐさま鼓の頬や首に手を当てるが、熱はなさそうだ、と推測する。
「食べたくない、って。なにか不安なことでもあるの?また嫌がらせされた?それともご飯になにか入ってた?」
ふるふると首を振る鼓。
遼介は片手で頭を掻きむしり、鼓の体調に気づけないなんてストーカー失格だ、と思った。そもそもストーカー失格とはなにか。
「つーくん部屋戻る?ほんとにどうしたの?つーくんの好きなカニチャーハンだよ」
「ほんとにかにが使われてるカニチャーハン初めて見ましたよ…普通カニカマだろ」
「カニカマ?」
「……なんでもないです」
遼介はんん、と唸って、鼓の顔をのぞきこんだ。鼓の目がぼやけている。
「熱は無いし、なにかあるわけじゃない…どうしたら…」
「小テスト…」
「え?」
「小テスト、100点取れなかった…」
ぽかん、と口を開ける遼介。
「…………落ち込んでるの?」
「……はい」
遼介はなんだそんなことか、安心した―などとは言わず、すぐさま対面に座る鼓の元に赴き強く抱きしめた。
「つーくんが満点取れないなんて…体調でも悪かった?」
「わかんない…何度解き直しても答えが合わなくて、先生に聞いても答えはそれ以外ないって言ってて…」
どうやら数学の小テストで満点を取れなかったことで非常に落ち込んでいるらしかった。
遼介はそんな鼓をあしらうこと無く、優しく鼓を慰める。
「俺と一緒に解いてみよ、ね?」
「……はい」
鼓はしょんぼりしながらカバンから答案用紙を取り出した。
その後、テストの答えの一部が先生のミスで間違えられていたことが発覚し、鼓は昼食分を取り戻すように夕食を掻き込んだのだった。
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