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そんな顔しなくてもまた来るよ 4

「父さんって俺が家にいた時ほとんど家に帰ってこなかったから」 「お前だ」 「え?」 「…お前が、家にいられるとイライラするから帰ってくるなと言ったんだ」 そんなこと言ってない、と言いかけて、鼓は口を噤んだ。 (…日本に帰ってここに住み始めた頃、言ったかもしれない。だってその頃は今みたいに和解できてなくて、とにかく嫌いで仕方かったし) 心の中でボヤキ、鼓は小声でごめんと謝った。 「結構今まで…その、クソ親父とか、死ねとか馬鹿とか、暴言吐いて、ごめんなさい」 「……気にしてない。ワタシも悪かったな、これまでちゃんと話さなくて」 ぽん、と頭に手が乗せられる。 (この人、ただ不器用なだけなんだな) そう、鼓は心の中で思った。しかしあることが引っかかり、眉をひそめた。 「ねえ父さん。母さんは、父さんが嫡出を認めない、それは私の子ではない、とか言ったって言ってたけど…」 昔お父さんいないの、と聞いた時母親が言っていたことだ。あの問いから母はおかしくなった。 ジャンは鼓の視線に合わせるように膝を折る。 「あぁ、それな…もうワタシと眞白の中では解決している。それを言ったのはワタシではなく、当時のワタシの秘書だ」 「なんで、そんなこと」 「ワタシと眞白を破局させたかったらしい。なんでも眞白に恋していたとか。妊娠がわかったあの時、ワタシは秘書にすぐに子を守るようにこの家を用意させた。それが行われた一方で、秘書は眞白にこの家に住め、本当にワタシの子なのか疑わしい、嫡出は認めないと吹き込んだのだ」 はぁ、とため息を着くジャン。では、あの言葉は嘘だったのか。 そう思うと一気に気が楽になり、鼓はソファーにもたれかかった。 「そう…じゃあ、俺、ちゃんとほんとに…」 「愛されていたとも。ワタシにも、眞白にも。ワタシも対物性愛者だなんだと言っても、愛おしいという感情は抱ける」 ジャンは再度鼓の頭をわしゃわしゃと撫でる。その行動になぜだかほっとし、鼓はそのまま享受した。 数分後、頭を撫でるのをやめるとすまないと言った。 「なに、謝って」 「お前はもう少し時間が欲しいと言っていたのだが…実は、もう眞白が車で待機してしまっている」 「なんっ、で」 鼓は勢いよく顔を上げる。一気に母親にされたことを思い出し、はぁっ、と息が荒れた。遼介が手を繋いでくれなかったら恐らく過呼吸になっていた所だろう。

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