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そんな顔しなくてもまた来るよ 5

「ありがとう遼介…大丈夫」 やさしく頭を撫でてくれた遼介に礼を言い、再度父親と向かい合う。彼はどういう感情を抱いているのか分からない表情をして鼓を見ていた。 「もう少し時間くれって言ったよね。そんなに直ぐには顔合わせれないって」 「ああ…だから、会わなくていい。ただ、電話をしてやってくれないか」 (じゃあなんのためにここまで来たんだろう) 多少の疑問を抱きつつ、それなら、まあ、と頷いた。ジャンは鼓が了承したのを見て、伝えるぞ、と携帯を取り出した。 「でも、まって、まだ心の準備できてない」 「わかった、待とう」 深呼吸をする。 眞白と鼓が最後に会ったのは、もう10年ほど前だ。最後の記憶は、焦る母の顔。階段から落とされた鼓は頭から血を流し、それを予想していたかのように(実際予想していたのだろう)連れ去った吉田。 (あの頃はなにもわからなかった。でも真実が全てわかった今…俺は母さんを許せるのかな) 「遼介…俺、母さんを許せるのかな」 小さなつぶやき。遼介はそれに肯定も否定もせず、ただ、許す必要は無いよと言った。 「和解する必要なんてない。鼓が傷つけられたことに変わりない。ただ…今からまた新しく関係性を築くことはできるんじゃない?」 「……」 いつもの、遼介だ。 (安心する) 顔を見れば、春の日差しのような優しい顔をした遼介。 (いつも、助けられてる) 「すとーかーのくせに」 「えっ、今それ言う?!」 照れくさくなって鼓は可愛くない言葉を一言放った。 再び深呼吸し、ジャンにお願いしますと言う。 ジャンはわかった、と言って携帯をいじると耳に機器を当てた。 「…眞白、鼓の許可が下りた」 電話の向こうからぼそぼそと声が聞こえる。ジャンは眞白と数度会話をしたあと、頷き、鼓に携帯を渡してきた。 『……つづみ?』 「……」 (母さんって、こんな声だっけ) 十数年ぶりに聞く眞白の声は、固く緊張しているようだった。 「かあ、さん」 『ああ、鼓…鼓ね…本当に生きていたのね…』 「…うん、生きてたんだ」 電話の向こうで眞白の声が潤むのを感じる。それに呼応するように、鼓も喉から嗚咽が漏れ出す。

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