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そんな顔しなくてもまた来るよ 7
また、沈黙。どうしても気まずいのは仕方がない。話すことがなくなり…いや、本当は話したいことが沢山あるはずだ。けれど、何を話せばいいのか分からなくなってしまう。
鼓が言葉に詰まっていると、ごめんなさいと眞白が謝ってきた。
『私ね…今外の車の中にいるの。あわよくばあなたに会えたら…なんて、馬鹿なこと考えて、ジャンに連れてきてもらったの。本当にごめんなさい』
「……」
何も、言えない。だって、鼓はまだ会いたくないから。…会えないから。
セミが外でジージーと音を立て鳴いている。
それ以外の声が何も聞こえない。
『鼓……私は、あなたを、愛していたわ』
「……うん、」
『もちろん、今も、これからも、愛するわ』
「うん」
『私のしたことは許されない。でも、これだけは言わせて…ごめんなさい、鼓。私はあなたに酷いことをしたわ…許されないことを、たくさん。本当にごめんなさい』
ぼろ、と鼓の目から涙が溢れ出す。謝罪が欲しかったわけではない。でも、本当は心の中では、眞白に謝って欲しかったのかもしれない。
(頭が、ぐちゃぐちゃになる)
涙を拭うのに必死になる。きっと電話越しの眞白も泣いている。何となくそれがわかるのは、2人が親子だからだ。
「母さん、俺…母さんがしてきたことは許せない」
『ええ、それでいいわ…』
「でも、俺の大好きな人が…許せなくても、新しい関係は築けるって教えてくれた。……だから、もう、いいよ」
息を詰まらせながら、そう言う。向こう側で眞白が息を吸う音がした。
眞白は許されないことをした。けれど、鼓はそれを水に流すと言ってくれた。これだけの幸福が、眞白にはあるだろうか。
「もう一度、やり直そうよ。お母さん」
昔みたいに、そう呼んで。
電話を切って、ジャンに返す。受け取った彼は鼓の前に跪き視線を合わせてくる。
「ありがとう、鼓。眞白と話をしてくれて」
「俺も、話したかったし…いいよ」
ふう、とため息をついて遼介の手に自分の手を重ねた。すると遼介は自然な動きで鼓の手を取りちゅっとキスをした。
途端、鼓の頬が赤くなりぱっと手を引っこめる。
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