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そんな顔しなくてもまた来るよ 8

「さ、さすがにここではいちゃつけない…から…」 「知ってるよ。でも頑張ったつーくんのためにせめてものキスを」 「そうですか…」 顔を赤くしながら鼓はキスされた手の甲を触った。まだ感触が残っている気がする。 それを見ていたジャンがふと一言。 「それで、氷川くん。君はどうやって鼓と知り合ったのだね」 「エッ」 外ではサンサンと太陽が輝く中、部屋の中が一気に凍る。遼介はそう言えば数日前に出会いからなにから全て聞くと言われていたことを思い出した。 「…お知りですよね。既に」 「知っているとも」 「だ、だったら…」 「だが君の口からは聞いていない」 「……エェット」 引き攣った笑みを浮かべる遼介。ジャンと遼介を交互に見ていた鼓は、俺も知りたい!と挙手をした。 「遼介ってどうやって俺のこと知ったの?気づいたらすとーかーになってたし、俺知らない!」 「ちょ、つーくん、ストーカーって言うのちょっと」 「事実じゃん。もう父さんだって知ってるよ」 「ソウデスケドッ!」 先程は鼓が赤くなっていたが、今度は遼介の顔が青くなる。手で必死に鼓を制するが、それも虚しくジャンがさあ話せと言わんばかりに対面のソファーに座った。 「この親子怖い…」 「まず、鼓に出会ったのは鼓がまだ中学生のときです」 「えっそうなんだ」 「ほう…そこまで遡るか」 「…詳細は省きますが、酷い失恋をしてて。高校では色んな男を抱いて解消してたんです。高1の時ですね。そんな折、家に帰る時があって学校の前で待ってたら、見学に来たつーくんがナンパされてるのを見かけて。なんとなく助けて、なんとなく今の状況聞いてもらって…」 (なにそれぜんっぜん覚えてない) 鼓は口こそ挟まなかったが、全く当時の記憶を持っていなかった。おそらく突然日本に帰国させられ色々と荒れていた時期だから、そんなことを覚えている暇もなかったのだろう、と結論づける。 「その時に、鼓に言われたんです。忘れる必要なんてない、楽しかった記憶だってあるはず。それを忘れてしまうなんて悲しくない?って。その言葉に俺、はっとさせられて…確かに辛い記憶だけじゃなかったなって。忘れる必要なんてなかったんだなって」 そうして、鼓に惚れてしまった。そう、遼介は言った。 「まあそれから鼓の中学の先生を買収して鼓の写真を撮るよう指示したんですけどね」 「おいこら遼介」

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