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第9話 そうして、奇妙な共同生活が始まる
ベッドの上、ぼんやり目覚める柊。
昨夜の夜更かしのせいか?
いくら寝ても寝足りない、ような気がする。
ジェイクは結局、転居費用が溜まるまで
柊のアパートで居候する事になり、
ジェイクはロフトでいいと言ったのだが、
柊はたとえ居候と云えどゲストに荷物置き場を
使わわせる訳にはいかんと言い張り、
メインベッドルームはジェイクが使い、
柊はLDKのソファーベッドで寝ていたのだが……。
いつもは冷たいはずの傍らへ、人肌の暖かみ。
「…………?」
戸口へ現れた、1人息子の大地を抱きかかえた
チャイルドシッタ-・コニーの視線が柊へ
注がれたまま固まっている。
「ん……おはよ、コニー」
「あ、おはよ、慎……今日の朝食は3人分?」
「んー? どしてー?」
「(長いため息)はぁ~~……っ、とにかく早く起きて
来て下さいね。大地くんの新しい学校とクラス見学に
行く予定なんですから」
と、コニーは出て行った。
傍らで何か(誰か)が軽く動いて、
その体をすり寄せて来たので、柊は無意識に
そのジェイクを抱きしめた所で完全に目が覚めた。
「?!☆ ジェ ――っ(絶句)」
「ン ―― ん、ン……もう、朝なの~?」
「あ、あぁ」
(ど、どうして、一緒に、ね・て・る……??
それにオレ達は何故、素っ裸なんだ?)
「何か、今、女の子の声が聞こえてたけど……
こんなとこ見られてマズかったんと違うー?」
「ま、マズい事なんか何ひとつないよ。オレはバツイチ
子持ちだけど、彼女はいない」
「ふ~ん、慎之介って、バツイチ子持ちだったん
だぁ―― にしては、めっちゃ冷や汗出てるよー?」
「お、大人をからかうな。ほら、朝飯食う前にシャワー
して来い」
と、起き上がって、ベッドの端に足を下ろして
呆然としたよう、固まる。
その柊の視線の先にはゴミ箱から、溢れんばかり
となったティッシュと使用済み避妊具の山。
「んー、どしたのー?……あ、あぁ! 昨夜の慎さん、
ものすご~く絶倫だったよ。よっぽど溜まってたん
だね」
「……」
”やっべぇ~、オレとしたことがまるで記憶に
ない……っ”
この世の終わり、みたいな様子でベッドの端に
座ったままの柊を横目にジェイクはすまし顔で
シャワールームへ入って行く。
柊が昨夜のジェイクとの行為を記憶していないのは
”ヤッていない”のだから当たり前で。
……あのティッシュと使用済み避妊具の山は、
車中のフェ*だけで人を中途半端に興奮させ、
自分は病院からアパートに戻るなり爆睡して
しまった柊へのちょっとした意趣返しだったのだ。
*** *** ***
シャワーを浴びて、LDKで朝飯にありつく頃には
柊も普段の状態を取り戻しており、これから
しばらくこのアパートの居候になるジェイクへ
大地とコニーを紹介した。
「―― 彼女は大地のチャイルドシッタ-のコニー」
「よろしく。日本語お上手ね。日系の方?」
「いや、クオーター。
5才の時からアメリカと日本行ったり来たりの生活
してたから」
(相手が可愛い女の子だと、随分優しいじゃ
ないか。それに、自分のパーソナルデータも
素直に教えてる……)
「やだ、転勤族って私と同じだわ」
「ふ~ん、そうなの」
「うん。私の場合、母と再婚した継父
(ステップファーザー)が外資系銀行の営業マン
でね、引っ越し・転校は日常茶飯事だったわ」
「だからかぁ、キミの言葉のイントネーションって
訛りがなくて聴きやすい」
「そーぉ? 嬉しい! アメリカの学校じゃ言葉も
ロクに喋られなきゃ即イジメの対象だから、必死で
補習クラスに通ったの」
ジェイクとコニー、2人の様子が和気あいあいと
していくに釣れ、柊の表情は憮然としたものに
なってゆく。
それが大地には面白くて仕方がない。
俯き、必死に笑いを堪える。
「―― コラ、大地、何がそんなに可笑しいんだ?」
「ジェイクとコニーってとーっても仲良しさんですね」
「あぁ、仲が良いのは凄くいい事だ」
「でも、お父さんは……」
「……何が言いたい?」
との、問いに大地は「別にぃ」と、
言葉をはぐらかして、壁時計を見やり、
「あー、もう11時ですよ。ミセス・ブラウンとの
お約束に遅れちゃいます」
「おぉ、そうだな」
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