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第26話 告白 5-4
会釈をし、足早に駅へ向かい歩き出した藤堂の背中を見つめる。何度か振り向きながらも人波の向こうへ消えた、その背中を確認して大きく息を吐いた。
「なんか動悸がする」
どこか大人びた仕草や表情。藤堂は人の気持ちを先回りして考えられるような、びっくりするほどいい男だと思う。大きな包容力にうっかりほだされてしまいそうなほどだ。
「あんな風にお願いされてしまうと、強く突き放せないもんなんだな。自分の駄目さ加減がひど過ぎてへこむなこれは」
うな垂れ肩を落とすとぐしゃぐしゃと頭をかき回す。藤堂に触れられた感触がいまだに残っている気がした。
「なんでこんなに動揺してるんだよ自分」
流されやすい性格が今更ながらに露見して泣ける。もともと自分は押しに弱く、踏み込まれると拒めない性質なのだが、藤堂はどこか目が離せなくて、芯があり強そうに見えるけれど、どこか脆そうにも見えて近づきたくなる。
「ずっとあの調子で来られたら本当に流されるんじゃないか?」
彼の持つギャップとそらせないくらいまっすぐな瞳に、すでに捕まってる気がするのは気のせいか。
「はあ、トラップってこれか? 計算か?」
ふいに片平の言葉が頭をよぎる。でも藤堂といるとすべてが偽りに見えないし、嘘など感じない。
「策士って言うか、なんと言うか」
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